四季の変わり目でのからだの変化に敏感になることも重要だ。

「例えば、更年期障害の症状としてよく見られるホットフラッシュやめまいやのぼせは、漢方の概念では気が上がることです。これは冬から春に向けて、気が上がるときに起こる症状です。春は暖かくなって活動的になる時期ですが、無理せずペースをゆるめて、天気がよくてもあまりがんばろうとしないといったことも大切なのです」

 季節に応じての過ごし方を知っていることも、諸症状を抑えるうえでは大切だと中田医師は話す。

「自分にどういう反応が出ているかに敏感になることが大切です。そのからだの反応をよく観察してコミットするのが漢方です」

 中田医師は患者の置かれている状況に応じて、処方をするのかしないのかを判断する。

「実際に漢方で処方する場合には、患者さんがつらさを訴える症状によって処方します。例えば、肩こり、冷え、のぼせである場合には大柴胡湯(だいさいことう)。手足がほてって睡眠に不具合があれば、熱を冷ます三物黄ごん湯(さんもつおうごんとう)。強い焦りや不安不眠、食欲不振などには女神散(にょしんさん)を処方するなど、これはほんの一例ですが、症状を抑える手段はさまざまあります」

 急激なホルモンの変動が起こっている人に対しては、ホルモン補充療法を行うこともあるが、やはり根本的には更年期に入る前にからだを整えて、予防に努めるべきだという。

「骨格筋を鍛えれば、骨格筋から分泌されるホルモンは上がり、血圧は下がります。処方のみに頼ると、からだの不具合に目をつむり、先送りしているだけということになります」

“食べて消化して排泄する”ことを安定させて、足腰を鍛えて筋力をつければ、それだけで健康を維持できることを認識するべきだという。

 更年期障害は女性にとって、“人生の中間決算”にあたると中田医師。

「更年期障害というと、悪者扱いばかりされていますが、よい面もあることに気づくべきです。更年期を迎えるまでに体調を管理して、この時期をうまくクリアできれば、閉経により月経の出血もなくなり、体力も失わないのですから、後半の人生をバラ色にできると思います」
(文・伊波達也)

≪取材協力≫
練馬総合病院漢方医学センター長
大阪大学大学院先進融合医学共同研究講座特任助教
中田英之医師
1995 年防衛医科大学校卒。同大病院産婦人科などを経て、2011年から現職。17年から大阪大学大学院特任助教。日本東洋医学会専門医・指導医、日本産科婦人科学会専門医。

※週刊朝日ムック『未病から治す本格漢方2020』より