「薬膳を学んで、自分がセミナーなどで教える立場になったことで、食だけではなく、より深く東洋医学の知識を身につけたい、不調に悩まされている人たちの役に立ちたいという気持ちが強くなっていきました。50代始めの頃です。でも仕事もあるし、鍼灸の学校に通うには、それなりの学費もかかります。夫にも相談したり、3年くらいずっと悩んでいたのですが、3年経ってもやってみたい気持ちが続いていたので、だったらチャレンジしてみよう!と、思い切って入学したのです」

■若いころのようには覚えられないもどかしさ

 3年間の学費はおよそ450万円。もちろん本気で鍼灸師を目指す人が多く、クラスメイトの年齢もさまざまだ。彼女が年長者ではあったが、年下のクラスメイトからも慕われ、同じ志を持つ仲間との授業は楽しく刺激的でもあった。

 楽しい反面、新しいことを学ぶ苦労はおおいにあった。試験のたびに自分の年齢と直面。鍼や灸の手技は思うように手が動かず、自宅へ帰って夫にも協力してもらい、何度も何度も練習を重ねた。座学でも体の仕組みや経絡の位置、治療法に至るまで、覚えなければならないことは膨大にあるが、なかなか頭に入ってこない。授業の予習・復習にあてるため、友人たちからの誘いや遊びを控え、試験前には仕事をセーブすることもあったそう。

「特に資格を取得するための国家試験の勉強が本当に大変でした。これに合格しなければ、今までやってきたことが報われない。夫や家族はもちろん、友人たちにも理解してもらい、机に張りついて勉強しましたが、若い頃とは頭に入る速度や深度が違います(笑)。覚えられないし、覚えてもすぐに忘れてしまうので、覚えるべきことを自分でICレコーダーに吹き込んで常に聞いたり、単語帳を作ったり。こんなに勉強をしたのは受験勉強以来ですが、国家試験に合格したときは、味わったことのないような大きな達成感を感じました。鍼灸学校で学んだ3年間は長いようで、あっという間。今までになかった新しい人間関係も築けたし、やってみて大きな自信がつきました。卒業してからは出張施術からスタートして、いつかは起業したいと思っています」

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50代はラストチャンスかもしれない