■はけ口が極端に少なくなっている

 一方、“心の病”は売れっ子芸人だけに限った話ではない。「最近は、心を病んでやめていく若手芸人も増えてます」というのは、数多くのバラエティ番組を掛け持つ放送作家だ。

「仕事柄、若手芸人のネタ見せを担当したり、一緒に飲んだりすることも多いのですが、売れてないことを苦に心を病む芸人が増えているように思います。まわりの友人や親も『そこまで無理することない。辛いならやめろ』と言うしかない。芸人として10年以上売れないと人生に対する不安感は最高潮に達するわけで、病んでしまう気持ちもわからなくもない。さらにコンプライアンス全盛の今、昔ほど“遊び”ができるわけでもなく、闇営業も厳しくなった。上の世代の芸人が多すぎるため、露出する機会も少ない。つまり、昔の芸人と比べても、ストレスの“はけ口”が極端に少なくなっているのです。名倉さんは売れっ子だから休業できたわけで、売れてない若手は心がしんどくてもバイトや劇場出番を休むわけにはいかない。結果、どんどん心を病んでいくという負のスパイラルが年々増えていると思いますね」

 お笑い芸人とうつ病の関係について金町脳神経内科・耳鼻咽喉科の内野勝行院長はこう語る。

「実はうつ病にかかる原因は未だにはっきりと解明されていません。ただ生活環境や職場環境などで生じるストレスが引き金になっている事は分かっています。うつ病になりやすいのは一生懸命仕事に取り組む、責任感や正義感が強い、まじめで几帳面であるといった性格の人が多いこともわかっています。いわゆる世間で言う“良い人”がなりやすいので、お笑い芸人は真面目な方が多く、もしかするとなりやすいのかもしれません。うつ病になると、脳内で神経伝達物質であるセロトニンの分泌量が低下します。重症の時はその物質を脳内に残しやすくする薬を使用したりします。ちなみにセロトニンはストレスでも低下します。名倉さんが回復できたのはストレスの発散が上手く出来て脳内のホルモンバランスが整ったからと予想できます。どうしても現代は核家族化やSNSなどの発達で気づいたらストレスを溜め込んでしまい他に相談できずにうつ病に進展してしまうということがよく見られます。つまり自分の感情を出し気持ちが落ち着くことができる場所を見つけていただくということが最大の予防であり治療なのだと思います」

 お笑いは特別な世界ではなく、われわれ一般人と同様にさまざまなストレスに晒されている。日本社会全体の問題といえそうだ。(藤原三星)

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藤原三星

藤原三星

ドラマ評論家・芸能ウェブライター。エンタメ業界に潜伏し、独自の人脈で半歩踏み込んだ芸能記事を書き続ける。『NEWSポストセブン』『Business Journal』などでも執筆中。

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