このチームオーダーによって、FIA(国際自動車連盟)はレギュレーションを改訂。2003年からチームオーダーを正式に禁止するほどの事態となった。

 フェラーリが行なった2010年のチームオーダーは、この禁止期間中に行なった行為だった。シーズン中盤のドイツGPでトップを走るフェリペ・マッサに対して、チームが2番手を走行していた同僚フェルナンド・アロンソのほうがペースが速いと無線で知らせ、暗に順位を譲るよう指示したのである。

 レース後、フェラーリは国際スポーティング・コード第39条(チーム・オーダー禁止)/第151条(スポーツ信用の失墜)に違反したとして、10万ドルの罰金が科せられた。だが、同時に、この一件はチームオーダーをルールによって禁止するのは現実的には難しいという事実を浮き彫りにもした。

 そこでFIAは2011年以降、再びレギュレーションを改訂。「チームオーダーを禁止する条項(39.1)は削除されたが、「スポーツの信用を失墜させる可能性がある行為は禁止する」という国際スポーツ法典151c条は残した。

 そのため、現在ではフェラーリが行なったような露骨なチームオーダーはほとんど見られなくなったものの、2018年のロシアGPでのメルセデスのように、チームオーダーが発令されれば、物議を醸すことは昔も今も変わりない。

 逆に2018年のイタリアGPではフロントロウからスタートした2台のフェラーリがバトルしたために、結果的にタイトル争いをしていたセバスチャン・ベッテルがライバルだったルイス・ハミルトンに先行を許す結果を招いて、「なぜチームオーダーを出さなかったのか?」と批判を受けたこともあった。

 チームオーダーは是か非か? 

 それは永遠に答えが出ない問題である。なぜなら、F1は個人スポーツであると同時にチームスポーツでもあるという矛盾を抱えた競技だからだ。そのことは、F1には個人スポーツの勝者に与えられるドライバーズ選手権と、チームスポーツの勝者に与えられるコンストラクターズ選手権の2つのチャンピオンシップが存在していることでもわかる。

 ただ、ひとつ言えることは、F1がどんなに高度な技術によってレースが行われようと、感情を持った人間が行うスポーツだということだ。だからこそ、チームオーダーを巡って、私たち人間は一喜一憂するのだということを忘れてはならない。(文・尾張正博)