この出版社とは、2年前には、官邸が始めた質問制限の問題点をWEB版に寄稿させてもらったご縁もあった。人によって考え方は様々だなと思いながら、若い記者の人だったので、念のため伝えた。

 「お互い『表現の自由』を大切にしている仕事なので、『書くな』ということは言いませんが、事実を隠そうとする側を利することはないことを願っています」

 アンケートは、菅義偉官房長官が加計学園問題で「総理のご意向」などと書かれた文書の存在を「怪文書のようなものだ」と否定したことをきっかけに、社会部の望月記者が参戦するなど、大きく変わった官邸記者会見のあり方について、官邸クラブ員の本音を探るところにあった。新聞・通信・テレビの33人(望月記者が官邸での記者会見に参加するようになった2017年6月以降に在籍していた人を含む)が協力してくれた。

 昨年12月に首相官邸が望月記者の質問を「事実誤認」「問題行為」と断定し、「問題意識の共有を求める」と官邸クラブに申し入れたことに対しては、64%が「納得できない」「どちらかと言えば納得できない」と回答。また、この申し入れに対して新聞労連が抗議声明を出したことには、「南委員長の退陣を求める」という意見もあったが、76%が「賛同できる」「どちらかと言えば賛同できる」と回答し、一定の理解を示した。

 官邸取材の体験として、「事前通告のない質問で官邸側から文句を言われた」「オフレコ取材で官邸側から特定の記者を排除するよう言われた」という人がそれぞれ7人いた。「官邸と内部で繋がっている社がある以上、記者会では動けない。まずは権力寄りのメディアの記者の意識をまともにしなければならない」「官房長官の夜回りでは、携帯電話やICレコーダーを事前に回収袋に入れて、忠誠を誓っている。非常に息苦しい」という意見も綴られていた。

 官邸クラブの記者の取材は、記者会見だけではない。息苦しいほどの相互監視が張り巡らされた環境のなかで、日夜、夜討ち・朝駆けなどを行い、何とか官邸内部の情報をつかみ取ろうと奮闘しているのである。そうしたなかで、独自のスタイルを貫き、称賛を浴びる望月記者に対する感情は屈折しがちだ。行き場のない感情を官邸は「望月問題」として利用し、メディア内部の分断を図ろうとしてきた。特に新聞・テレビなどの既存メディアが突かれている弱点は「同質性」だ。同調圧力に弱くなる。長年、取材先からのセクハラに泣き寝入りを強いられてきた構造と同じだ。

次のページ
しっかりしろ、新聞記者