「官邸担当は過度な重要度を背負わされ、政権中枢から情報を取ることがメインの仕事として求められている。それぞれの社全体でジャーナリズムを守る覚悟を決めない限り、望月氏の独り相撲という構図は変えられない。官邸記者が望月氏と同様の振る舞いをして、社からどんな扱いを受けるかよく考えるべきだ。苦々しい思いをしながら、件の申し入れを読んだ官邸記者がどれだけいたか。変革を求められるのは、現場記者より、編集権者だ」

 アンケートに書かれた官邸クラブ員の訴えは切実だ。同質性の高い「ムラ社会」で窒息しそうな記者たちの悲鳴である。こうした状況から記者を解放するには、記者クラブの窓を開き、風通しを良くしないといけない。権力者にとっても、同質性の高い記者集団より、多様性のある記者集団の方がコントロールしづらい。

 元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた本地裁判決について、朝日新聞が7月9日付朝刊で、複数の政府関係者への取材をもとに「国が控訴へ」と報じたが、安倍晋三首相が9日午前に「控訴断念」を表明。朝日新聞は「政権幹部を含む複数の関係者への取材を踏まえたものでしたが、十分ではなく誤報となりました」「参院選が行われている最中に重要な政策決定をめぐって誤った記事を出し、読者や関係者の皆様に多大なご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳ありません」と謝罪する記事を出すことになった。

「アクセス・ジャーナリズムの失敗。あるいは、アクセス・ジャーナリズムを手玉にとった選挙戦術。しっかりしろ、新聞記者。『控訴の方針を明かにした政府関係者』は誰だったんだ?」

 映画「新聞記者」にも出演した元文部科学事務次官の前川喜平氏は即座にツイッターで、権力側へのアクセス(接近)を重視した今の政治取材のあり方を批判した。

 朝日新聞は謝罪記事の末尾に「今後はより一層入念に事実を積み重ね、正確な報道を心がけて参ります」と書いた。しかし、いま求められているのは、精神論を超えた構造的な改革だ。新書『報道事変』ではその方向性を打ち出したので、ぜひ議論を前に進めていきたいと考えている。

 新聞労連が行っている作文ゼミには、新聞社を目指している学生が毎年数十人集まってくる。そのなかには、望月記者にあこがれている人も少なくない。映画『新聞記者』のヒットによって、そうした傾向はさらに強まるだろう。望月記者は一つのモデルであって、万能ではない。しかし、将来世代や社会が期待する多様な記者像の芽を摘んでいては、日本の報道に未来はない。安倍政権が与えた試練を乗り越え、新しい時代のメディアを切り開いていきたい。(新聞労連委員長・南彰)