以前、ある取材でも答えたことがあるのですが、僕にはどうしても、「威厳のある父親」を演じるのは無理なようで。いかにプロの役者とはいえ、これだけはどうやら無理なようで。だから、できることと言えば、世の親御さんがお子さんに対してそうであるのと同じように、息子をたくさん愛することだけだと思っています。いや決して良さげなことを言おうとしてるんではなく、ん? 少しは言おうとしてるのかな俺? いやいや、やはり「たくさん愛する」、これしか自分にはできないと思っとります。

 以前、ある一般の方のツイートで知った話なのですが、震災で幼い娘さんを亡くしたご夫婦に、数年後に娘さんが生まれたというドキュメンタリーがあったそうです。そしてインタビュアーの方の「娘さんにはどんな風に育ってほしいですか?」との問いに、お父さんは、こう答えたそうです。

「おばあちゃんになって欲しい。ただそれだけ」

 本当に、そう思います。(文/佐藤二朗)

著者プロフィールを見る
佐藤二朗

佐藤二朗

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

佐藤二朗の記事一覧はこちら