■光と影を意識するのは 基本中の基本

 では、「安易なモノクロ」と評されないためにはどうすればよいのだろうか。ポイントはシンプルに三つ。「撮影」「仕上げ」「紙選び」である。

 まずは撮影。モノクロは色でごまかすことはできない。色に頼れないぶん、目にとまる被写体を画面内に写し込まなければならない。主題、副題、そしてシャッターを切るタイミング。同時に光と影を見ながら被写体をどの程度立体的に浮かび上げるのか、考える必要がある。光と影(光のとらえ方)を意識するのは撮影における基本中の基本。

「逆光だと失敗する」という都市伝説があるためか、アマチュアの多くは順光で撮る。これがいけない。順光で撮れば色は鮮やかに出るが、光が平坦に当たるため、被写体は平面的に写ってしまう。これをモノクロ化したところで色のない平坦な写真が出来上がるだけである。色でごまかせるカラー写真とモノクロ写真との違いが如実に出る部分だが、上手な人はカラー、モノクロ問わず、光と影をしっかりと意識し、撮影している。

 次に仕上げ。仕上げは作品のイメージを左右する大事な作業である。フィルムならば、現像と暗室処理。デジタルならば、RAW現像と後処理。ここで最も意識することは「階調」である。モノクロは色でのごまかしは利かなくても、白から黒まで階調を豊かに見せることで十分にそれを補える。大げさに聞こえるかもしれないが、「七色に見える」と言う人もいるほどだ。自分も最初はその感覚が理解できなかったが、毎日のようにモノクロと向き合っていたらその感覚を味わえるようになった。丁寧に階調を出したプリントは見た目にも気持ちよく、情報量も多いため、自然と見とれてしまう。「4秒目がとまればよい写真」と聞いたことがあるが、モノクロ表現の奥深さをいちばん実感できるのが、まさに階調を意識した仕上げである。肉眼では見落としていた存在への気づきも与えてくれるので、これを利用しない手はない。とはいえ、豊かな階調仕上げはあくまで選択肢の一つだ。


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紙選びで写真の印象は変わる