吉村はテレビに出始めた頃から「破天荒」を自称していたが、当時それを額面通りに受け止めていた人はほとんどいなかったように思う。かつての吉村は、威勢だけはいいのだがセンスも経験値も人並み以下で、うだつの上がらない若手芸人の1人に過ぎなかった。

 だが、吉村の中にある「売れたい」「目立ちたい」「スターになりたい」という純粋な気持ちだけは本物だった。「自分を鼓舞するためにあえて高い家賃の家に住め」という先輩の教えを守り、大借金を背負って高級マンションに住み、高級車を乗り回していた。まずは形から入り、あとから中身を埋めていけばいい、と考えていたのだ。「破天荒」の教科書をじっくり読み込み、そこに書かれていることを一つ一つ実践していく。それはある意味で誰よりも真面目な生き方だった。

 先に外枠だけを作っている状態で前に進むと、「中身が空っぽじゃないか」とバカにされがちだ。だが、あえてそれを貫くことで、何より大事な「経験値」が積める。吉村はしぶとくテレビの世界に食らいついていき、少しずつ実力を伸ばしていった。

 最近の吉村の仕事で特筆すべきは、Amazon Prime Videoのオリジナルバラエティ『今田×東野のカリギュラ』の「人間火の鳥コンテスト2018」である。この企画では、全身が大きな炎に包まれた状態で車の屋根に乗り、そのまま池に飛び込んでいった。何人かの芸人が挑戦していたが、吉村の飛び方が最も美しく、最も面白かった。体を張った企画に挑む度胸があり、それをやりきる運動神経もある。吉村はこの手のロケ企画でも重宝される存在なのだ。

 吉村の同期には、絵本作家としてベストセラーを連発する西野亮廣、小説家として芥川賞を受賞した又吉直樹、ニューヨークに旅立った綾部祐二、社会問題に切り込んでいる村本大輔など、ひとクセある特異な人物が多い。その中で吉村は、個性を出しすぎず、時代の流れに逆らわず、職人として仕事をこなし、結果を出している。「自称・破天荒」と揶揄されることの多い吉村だが、最も競争の激しいテレビの世界で戦い続ける真面目な生き様には嘘はない。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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