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中世ヨーロッパ画家に描かれた幼きキリストの「足の裏」 医師が注視する共通点とは?

連載「歴史上の人物を診る」

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ルネサンス期の画家が乳児の足指などいかに注意深く観察しているかがわかる(写真:getty images)

ルネサンス期の画家が乳児の足指などいかに注意深く観察しているかがわかる(写真:getty images)

 また、ボッティチェリ以前にも、初期ルネサンス画家ファブリアーノ(1370-1427)、北方ルネサンスの巨匠ファン・デル・ワイデン(1399-1464)の作品、ボッティチェリ以後ではラファエロ(1483-1520)、コレッジョ(1494-1534)、ルーベンス(1577-1640)の作品に見られる。

 ファブリアーノの「三王礼拝」ではひざまずいたマギの一人がイエスの左足裏に接吻することにより、また、ワイデンの「聖母子」ではイエスが自らの左手で右足裏を触ることにより、親指の背反が生じている。コレッジョの「聖ヒエロニムスのいる聖母」では幼いイエスに頬擦りする少女のマリア・マグダレナの右手がイエスの左足裏に触れて反射が誘発されており、同様に、ラファエロの「小聖母子」やルーベンスの「聖女カタリナの結婚」でも見られる。

 乳児の足指が軽く反り返った様子を描くことで、愛らしさと躍動感が増して見られる効果があるが、いずれの絵でも外から刺激が加わることではじめて反射が誘発されている。このことから、ルネサンス期の画家がいかに対象を注意深く観察しているかがわかる。

■病的反射の発見

 おそらく幼児に見られるこの反射現象は古くから経験的に知られていたのだろうが、医学者の目で反射を観察し病的意義を記載したのが、その名を残すジョゼフ・フェリックス・フランソワ・バビンスキー(1857-1932)である。

 ポーランド系のフランス人家庭に生まれたバビンスキーはパリ大学を卒業し、サルペトリエール病院で神経内科学の泰斗シャルコーに師事し、ピテ病院の神経内科医長として診療と臨床研究に従事した。その名を残す反射は、1896年の論文で初めて報告している。師匠シャルコーの伝統を継ぐ彼は、CTやMRIのない当時、最大の診断技術の持ち主だっただろう。

 我々も電子カルテのモニターと検査所見だけでなく、患者さんをもう一度しっかりみなければならぬと自戒するとともに、同窓であるや否に関わらず診察の重要性を学部学生や研修医に伝えていきたいものである。

◯早川 智(はやかわ・さとし)
1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など。


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早川智

早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など

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