司法取引──。これが今回の事件を読み解くキーワードである。日本版司法取引は、今年6月に導入された。贈収賄や談合などの経済犯罪のほか、薬物や銃器犯罪などの組織犯罪がおもな対象だ。司法取引が国内で適用されるのは、今回で2例目。司法取引によってゴーン容疑者の逮捕が実現したことから、前向きに評価する声も出ている。

 しかし、今回の司法取引の手法は正しかったのか。元東京地検特捜部検事の郷原信郎氏は、こう話す。

「日経新聞によると、『過小』と判断された役員報酬は、株価に連動した報酬40億円を有価証券報告書に記載していなかったとのことです。日産関係者が記載するよう指摘したところ2人は拒否したとのことですが、これが事実だとすると、ゴーン氏とケリー氏の報酬は日産から現金で支払われていたことになる。最終的には会社が組織で不記載にしていたということです。2人の刑事責任が重いのは当然としても、他の日産幹部も刑事責任を問われることは避けられません」

 それでも他の日産幹部が逮捕される気配はない。そこには、日産社内外の複雑な政治力学がからみあっているようにみえる。

 西川社長は、会見で繰り返し「ルノーのトップが日産のトップを兼任するのは、ガバナンス上問題があった」と説明した。ルノーは、日産の株式の43%を保有していて、日産の経営に強い影響力を持つ。さらに、経営不振が続くルノーは、日産との提携強化を望んでいる。一方、日産の経営陣には、ルノーが送り込んだ外国人の役員が多くいる。この現状について、会見で西川社長は「ゴーン会長に権限が集中していた」と説明。現在の体制を「負の遺産」と表現して、断罪した。

 事件発覚後の行動もすみやかだった。ゴーン容疑者の逮捕が明らかになったのは、19日夕。同日22時には西川社長による記者会見が開かれた。翌20日午前には、日産の川口均専務執行役員が首相官邸を訪問。菅義偉官房長官に、騒動を起こしたことを謝罪した。22日には取締役会議が開かれ、ゴーン容疑者とケリー容疑者が解任される見通しだ。

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特捜部の力を借りたクーデター?