「びっくりですわ。大本営はこんな大うそをついておるのかと。こっちはそこに行っとったわけやから。この目で見とったわけやから。虎の子の4隻をたった1日で失ったことを知っておるわけですから」

 事実を漏らされないようにと監禁されたに違いなかった。

 それから送りこまれたトラック諸島では、戦友や部下が次々と餓死していった。

「やせてやせて、本当に骨と皮になって、ほんで死んでいくんですよ。人間の姿ではありません」
「1日が終わると、『ああ、きょうも生きのびたな。死なないでよかったな』と思う。われわれはいったい何のために、誰のために戦争をしているのか。もう戦争などまっぴらごめんだ」
「このころの戦闘行為とは、ただただ生きることだけでした」

 仲間が餓死すると、近くの山に埋めにいく。穴を掘る体力などない。地面をかきむしって遺体を入れ、穴からはみでているところは土を乗せて薄くならした。それで終わり。

「なんと申し訳ないことを死者にしたのかと思う。思うけれど、その時はそれどころじゃないんですわ。遺体の処理をしながら、あ、俺はいつやろかと、そんなことを考えながらやっとるわけです。あすは自分の番や。だから堪忍してくれと心の中で手をあわせて、ほいでかえってきた」

 それまで上官から繰りかえし聞かされたのは「貴様ら、よく聞け。いったん戦地に行ったら階級の上下は関係なしに一緒に死ぬんやぞ」ということだった。

 嘘だった。

 戦後73年となる今も瀧本さんが声に怒気と殺気を込めて語るのは、やはりトラック諸島でのできごとだ。

 木の葉を海水で煮て食らうしかない日々。餓死していく下っぱ兵たちを尻目に、非常用の備蓄食糧に手を出して食べている上官たち。どうにも我慢ならなくて瀧本さんは分隊長に食糧の開放を願いでる。

「一発でことわられました」
「われわれ下っぱが草を食って命をつないでいるときに、士官どもは銀飯を食べとるんですよ。銀飯ですよ、銀飯。こっちは草くうとるんや」

 みずからにも餓死が迫りくる中、瀧本さんはこう考えるしかなかった。

「こんなね、南のね、ちっぽけな島で骨と皮になってね、のたれ死んでね、ヤシの木の肥やしになるだけなんて、こんな死にかたは納得できない」
「ここで死ぬことがなんで国のためか。こんなばかな話があるか。こんな死にかたがあるか。何が国のためじゃ。なんぼ戦争じゃいうても、こんな死にかたに得心できるか。敵と戦こうて死ぬならわかる。のたれ死にのどこが国のためか」

(朝日新聞大阪社会部・下地毅)