例えば、東京には「五色不動」というものがあり、目黒・目白・目赤・目青・目黄のお不動さまをまわる巡拝が好まれている。実はこの「五色不動」には目黄不動が2カ所あるので、5色6寺めぐりとなるのだが、各寺とも3代将軍・家光に関係する逸話を持っている。他にも「関東三十六不動霊場会」「四国三十六不動尊霊場」「近畿三十六不動尊」「東海三十六不動霊場」など、お不動さまが守護する酉年には特に巡拝が盛んになるようだ。

●初七日の裁判官がお不動さま

 お不動さまめぐりの一番の祈願は、煩悩を焼き払い厄難を取り除いてもらいたいというもの。運を転がし立身出世や勝運を得ることもあるようだが、なにより健康祈願が多い。そして、不動明王の大きな役割のもうひとつが「十三仏」のひとつ目の仏というものがある。「十三仏」とは、江戸時代に広まった考え方で、この世とあの世の間にある場所で、死んだ後どの世界に移されるのかを決める裁判を司る仏(本地仏※注)のことである。

 裁判は死後7日ごとに行われ、四十九日(七七日)ののちは数年ごととなり、最後の裁きは32年後の33回忌となる。つまりお葬式の後に行われる初七日とは、不動明王(秦広王)の裁きを受ける日という意味である。不動明王の次は釈迦如来(初江王/14日目)、そして文殊菩薩(宋帝王/21日目)、35日に地蔵菩薩(閻魔王)が登場し、13回忌は大日如来となる。つまりは死者がこういった裁きで手心を加えてもらえるよう、生者が裁判官にお願いをする行事だったのだ。今では初七日も四十九日もお葬式の当日に一緒に行うことも増えたが、不動明王への参拝が人気だったのは、十三仏法要と無関係ではなかっただろう。

 有名なお不動さまがかなり関東には点在しているが、中でも甲府市塩山にある恵林寺明王殿に鎮座する武田不動尊は、信玄の姿を写しその頭髪を焼いて彩色した像だと伝わる貴重な像である。恵林寺は信玄の墓所としても知られる名刹で、山門には有名な言葉が掲げられている。甲斐へ侵攻した織田氏による焼討ちにあった恵林寺の快川和尚が、火に巻かれながら口にした辞世の言葉「心頭滅却すれば火も自(ひおのずから)涼し」だ。酷暑で苦しむこの夏には、いろいろな意味で心魅かれるお寺である。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)

※注)本地仏とは、仏がさまざまな神や救世主の姿となって現れるという「本地垂迹説」における大元の仏のこと。この場合は亡者の審判を行う裁判官・十王(閻魔王に代表される10人の王)に蓮華・祇園・法界王を加えた13王の本来の姿と考えられた十三仏があげられる。他に天照大神の本地仏は大日如来、少彦名命の本地仏は虚空蔵菩薩など。

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鈴子

鈴子

昭和生まれのライター&編集者。神社仏閣とパワースポットに関するブログ「東京のパワースポットを歩く」(https://tokyopowerspot.com/blog/)が好評。著書に「怨霊退散! TOKYO最強パワースポットを歩く!東東京編/西東京編」(ファミマ・ドット・コム)、「開運ご利益東京・下町散歩 」(Gakken Mook)、「山手線と総武線で「金運」さんぽ!! 」「大江戸線で『縁結び』さんぽ!!」(いずれも新翠舎電子書籍)など。得意ジャンルはほかに欧米を中心とした海外テレビドラマ。ハワイ好き

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