その後、『M-1グランプリ』への再挑戦などをきっかけに、少しずつ関係が修復していった。2018年にはコンビとして初の単独ライブを開催。南海キャンディーズが新たなステージへと一歩を踏み出したところで本書は締めくくられる。

 この本にはオードリーの若林正恭が解説文を寄せている。これが名文であると発売直後からあちこちで評判になっている。若林は『たりないふたり』という深夜番組で山里とユニットを組んで漫才を披露していた。2人は同期であり、性格や芸風などにも共通する部分が多く、いいライバルという関係にある。

 本書の中で、山里は自分が天才ではないことに絶望し、ついには天才になるのは「あきらめた」と宣言している。しかし、若林はそれを認めない。「逆に、山里亮太を天才だと思わない人ってこの世にいるのだろうか」という一文から解説を始めている。

 若林は『M-1グランプリ』で南海キャンディーズの漫才を見たときに衝撃を受け、山里のツッコミ芸の虜になった。ツッコミでは山里には勝てないと思い知らされたため、2人でユニットを組んだ際には自ら志願してボケを担当した。若林は共にネタ作りをして一番近い距離で山里を見届けてきた立場から、山里亮太という芸人の本質を射抜くような鋭い分析を披露している。

 その中でも興味深いのは、山里がすごいのは、自分のみっともないところや情けないところも堂々とさらけ出していることだ、という指摘をしているところだ。山里は傷を隠さない。前述の通り、本書の中でも嫉妬に狂って相方を精神的に追い詰めたり、嫌がらせをしたりしたことなども包み隠さず語っている。

 自身のラジオ番組『JUNK山里亮太の不毛な議論』(TBSラジオ)でも、「子供達を責めないで」という投稿コーナーではリスナーたちから普段のテレビでの仕事ぶりを事細かにチェックされ、厳しい叱咤激励の言葉を浴びせられている。もはやただの露悪趣味かマゾヒストであるとしか思えないほど、山里は自分の醜い感情や過去の悪行を人前にさらし続けている。

 ただ、そんな捨て身の生き方がスタッフやファンからは信頼される要素となる。格好悪い部分も見せながらがむしゃらに戦う山里の生き様は人々の胸を打つ。山里というとツッコミフレーズの豊富さなどに注目が集まりがちだが、彼の芸人としての本当の魅力は、すべてをさらけ出していつも全力で勝負をしているところにあるのだと思う。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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