発生から1カ月ほどが経った今も批判が止むことのない、日本大学アメフト部の悪質タックル問題。内田正人元監督や井上奨元コーチによる会見での司会者のお粗末ぶりが火に油を注ぐ事態となるなど、その後の日大の対応にも批判が集まった。なぜあのような事件が起きてしまったのか。問題を先送りにして改革に失敗する現象などを分析した『改革の不条理 ──日本の組織ではなぜ改悪がはびこるのか』(朝日新聞出版)の著者である、慶応義塾大学商学部の菊澤研宗教授に、その背景を分析してもらった。

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 今回の問題は、実際に悪質なタックルを行った日大の加害選手自身が自責の念に駆られて記者会見したことで事態が大きく変わったといえる。

 それまで、日大側も、内田元監督、井上元コーチも、真実を語ろうとしているとは思えない、曖昧な態度をとり続けていた。人間は嫌な問題に出くわしたとき、いろんな対処の方法をとるが、その典型が問題の先送り、やり過ごし、見過ごしである。あえて、問題と向き合わずに、問題を先送りにし、変革しようとはしない。つまり、改革をしない方が合理的だという意思決定を行うのである。おそらく、内田元監督も井上元コーチも、そうしたほうが得だと思ったのではないだろうか。というのも、問題はときどき、時間の経過とともに消えたり、忘れられたりするからである。

 しかし、加害選手が会見を行ったことで、状況は一変。一連の経緯や内田元監督や井上元コーチからどのような指示や発言があったのかなどについて詳細に説明した上で、元監督や元コーチの指示があったにせよ、指示の是非を自分自身で判断することなく反則行為をしてしまったなどとして自己反省し、相手選手に対して改めて謝罪したからだ。

 これ以上逃げられなくなった元監督と元コーチは、予定になかった記者会見を開き、加害選手の主張を否定し、悪質タックルなどの命令も指示もしなかったと主張せざるをえなくなったのである。しかしこの発言は、さらにマスコミおよび世間の不評を買い、ますます問題は拡大していった。いまや、元監督や元コーチのみならず学長や理事長にも批判が向けられ、日大全体の構造的問題ではないかというところまで、問題は拡大化し、深刻化しているように思える。

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元監督や元コーチたちの行動の裏にあったもの…