「おつきあいされている方とかはいらっしゃらないんですか? もし結婚を考えることがあったら、うちの子のことは心配せずに、そうされてくださいね」

 冗談っぽい言い方に、佳奈さんも苦笑したという。しかし、そんな佳奈さんの顔を見ていたら、とても気が重くなって、申し訳ないような気持ちになり、それまでどこか自分で蓋をしていた、親を騙しているような気持ちが次第に大きくなっていったという。

 それでも、カミングアウトには迷いがあった。一人っ子だから、自分が同性を好きだと知ったら、どんなにショックを受けるだろうか。まったく理解されなくて、拒絶されたらどうしようか。1カ月ほど悩んだ香織さんはカミングアウトの決意をして実家に行った。

「実家へ向かうときは、人生で一番緊張しました」(香織さん)

 しかし、話はなかなか切りだせなかった。そんな香織さんの迷いに気付いたのか、母親は「何か話があるんじゃないの?」「最近、食事に来ることもそんなになかったし、食事しても終わったらだいたいすぐに帰るじゃない?」と切り出した。

「私は言葉につまってしまって、母が自分の変化に気づいていたんだと思うと、いろんな感情がこみあげてきて、涙があふれました。涙で声が出ない中、やっと『実は、佳奈は友達じゃなくて、恋人で……』って言葉にしました」(香織さん)

 両親から何の反応もなく、伝わっていないのではないかと思った香織さんは、「レズビアンなの」と口にした。そして、声をあげて泣いた。

 香織さんの涙が落ち着いてきた頃、「いつからそうなの……?」と聞いてきた母親の声は涙声だった。「中学時代からずっと」と答えると、母親は、「そう、正直ショックだけれど……」と言ったきり黙ってしまった。すると、それまで何も言わなかった父親が「しょうがないだろう。それでお前は幸せなんだろう?」と、ちょっと強い口調で、怒っているように言ったという。

■カミングアウトされた母親の「本当の」気持ち

 母親とはその後も以前と同様、1週間に一回ほど電話のやりとりをしたが、お互いカミングアウトの話題は出さないまま、それまで2、3カ月に一度は帰っていたという実家にもいかず、半年ほどが過ぎた。そして、クリスマスが過ぎてすぐの頃、母親から電話があった。

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予想外だった母親の言葉とは?