下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
福岡空港はいま改修工事中。福岡修行組は博多ラーメンかうどんを食べるぐらいの時間しかないから問題はない
福岡空港はいま改修工事中。福岡修行組は博多ラーメンかうどんを食べるぐらいの時間しかないから問題はない

 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第49回は福岡空港から。

【修行組はラーメンかうどんを食べるくらいという福岡空港】

*  *  *

 バンコク在住の日本人サラリーマンの間に、福岡修行と呼ばれるフライトがある。彼らが東京に出張するときに使う。全日空のマイルを貯めている人に限られた話なのだが。

 ルートはこうだ。

 バンコク発の朝便で成田空港に向かう。午後に成田空港に到着し、そこで用もないのに福岡行きに乗り換える。福岡空港に着いたら、1時間ほどの待ち合わせで羽田空港行きに乗る。羽田空港に到着するのは夜になる。

 いってみれば、成田空港から羽田空港に向かうために、7時間から8時間をかけて福岡空港をまわって行くという、まあ、非効率この上ないフライトである。だから修行と呼ばれているのだが。

 マイルを貯めていない人の目には、「そんなに飛行機に乗ることが好きなのか」とあきれられるルートなのだが、当のサラリーマンは満足げにこのフライトを予約する。

 バンコクと東京の間のマイルだけでなく、東京と福岡を往復するマイルが貯まるからだ。

 なぜこのフライトになるかというと、通常のバンコク―成田往復航空券と運賃より600円から800円高いだけなのだ。この差なら、マイルを貯めようと心が動く。

 出張が多いサラリーマンにとって、マイルを貯めることはささやかな楽しみである。貯まったマイルを使って、無料航空券を手に入れ、休暇を楽しむ。仕事とは無縁だから、よけいに熱が入る。

 僕はバンコクで航空券を買いことが多い。あるとき、いつも世話になる旅行会社からこういわれた。

「下川さん、マイルを貯めるなら福岡修行をするぐらいじゃないとだめですよ。いつまでたっても貯まりません」

 昨年、1度、福岡修行を体験した。このフライトは、成田で日本に入国する。そしてチェックイン。チケットを差し出すと。こういわれた。

著者プロフィールを見る
下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

下川裕治の記事一覧はこちら
次のページ