2紙の編集局長は「率直にわびた姿勢には敬意を表する」などとコメント、大人の対応を見せた。だが、産経が誤りを認めるまでの2カ月間、2紙はネットで、会社への電話で、浴びせられる罵声に耐え続けてきた。おとしめられた評価はとても回復できない。私が会った女性の、不可解そうな表情が忘れられない。

 高木氏はこれまでもウェブ版で「沖縄2紙が報じないニュース」というシリーズ記事を書き、2紙を厳しく批判してきた。私自身を対象にした記事もあり、今もそのまま載っている。

 17年10月、作家の百田尚樹氏が県内で講演した。基地反対運動の現場にいる人の半分は中国人、韓国人だというデマを前提に「嫌やなー、怖いなー」と言い、「日当が何万円と払われている」「中核は中国の工作員だ」と主張した。

 事前に主催者に申し込んでから取材に行ったので、私の名前が百田氏に伝わっていた。壇上でマイクを握る百田氏は客席の私を一方的に名指しして、嘲笑を続けた。後で数えたら、2時間20分の講演中に22回、「阿部さん」と呼んでいた。「中国が琉球を乗っ取ったら、阿部さんの娘さんは中国人の慰み者になります」という発言まであった。

 百田氏や主催者が私を敵視していることは明らかだった。それでも、発言を問題視して記事にするなら、百田氏の言い分を聞かなければならない。それが公平に近づくための努力であり、メディアの鉄則であり、記者の基本動作である。

 講演後の百田氏を舞台袖に訪ねると案の定、主催者ら10人以上に取り囲まれ、動画撮影とネット配信が始まった。それでもいつも通り取材は続け、百田氏のコメントを聞いた。中国や韓国を差別していないと主張したこと、「日当」や「工作員」の発言については根拠がないと認めたこと、を翌日紙面の記事に盛り込んだ。

 この時、高木氏も会場にいたらしい。後日、産経ウェブ版に記事が出て初めて知った。記事によると、私の「取材姿勢は『差別発言ありき』で、『百田氏はヘイトスピーカーだ』というレッテルを張り、バッシング報道を展開する魂胆があったと受け取れた」という。

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新聞記者は人を批判することも多いが…