難治がんの記者が「病気からも何かを生み出せる」と希望を感じた、ある男の“苛烈な人生” (1/2) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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難治がんの記者が「病気からも何かを生み出せる」と希望を感じた、ある男の“苛烈な人生”

連載「書かずに死ねるか――「難治がん」と闘う記者」

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野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、翌月手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、翌月手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中

トマス・ホッブズとフランスの哲学者、ルネ・デカルトの生涯や思想に関する本。各国を旅したデカルトはホッブズと旅先で会ったとされる。旅と研究のつながりを「祖国を離れ、書物を離れたおかげで、離れずにいた場合よりもはるかによく果たしえた」と記している

トマス・ホッブズとフランスの哲学者、ルネ・デカルトの生涯や思想に関する本。各国を旅したデカルトはホッブズと旅先で会ったとされる。旅と研究のつながりを「祖国を離れ、書物を離れたおかげで、離れずにいた場合よりもはるかによく果たしえた」と記している

 働き盛りの45歳男性。がんの疑いを指摘された朝日新聞記者の野上祐さんは、手術後、厳しい結果を医師から告げられる。抗がん剤治療を受けながら闘病中。

【ホッブズとデカルトの生涯や思想に関する本はこちら】

*  *  *
 世の中には朝日新聞が嫌いな人が大勢いる。同じコラムに対してその人たちからも、愛読者からも賛否両論が寄せられると、ほっとする。人や言葉を敵味方に分断する壁。それを束の間、揺さぶることができたように思うからだ(勘違いかもしれない)。

 それだけに、対立する2陣営のどちらからも憎まれ通したという17世紀の英国の哲学者には同情を禁じえない。「万人の万人に対する闘争」で知られるトマス・ホッブズだ。

 高校時代に世界史の授業で出会った彼のことを知りたくなったのは、がんの影響だ。

 人間には動物と違って予見能力がある。だから、将来飢えたときのために穀物を自分のものにしておこうとして、人と人とが争う状況が生まれる、と彼は言う。

 これから自分はどうなるのか。一昨年にがんと分かり、「予見能力」と「予見可能性」は急に身近なテーマになった。米大統領選が争われていた一昨年、まだ候補者だったトランプ氏の動向から目を離せなかったのも、その関係だ。先行きが見通せない自身の体調とリーダー候補の言動、それに左右される世界情勢をいつしか重ね合わせていた。

 その「予見能力」に着目して「万人の万人に対する闘争」という考え方を発想したのがホッブズだ。何とも殺伐とした人間、世の中に対する見方ではないか。がんになったぐらいではとても思いつかない。どんな体験から生まれたのか、がぜん興味がわいた。

 大学時代の教科書を引っ張り出し、買い求めた新書を読んでその生涯をたどり終えると、感心とも同情ともつかないため息が漏れた。

 こんな人生なら、そう考えるようになるのも無理はない、と納得した。

 ホッブズは若くして父親を亡くし、伯父に援助されて学業を続けた。その身分では、名門大学を卒業しても食べていく道が保証された時代ではない。革命直前に身の危険を感じて亡命し、王党派と行動をともにしているのに、「無神論者だ」と派内でにらまれる。革命後に帰国すれば、「もともと王党派だ」と憎まれる。対立する二つの陣営から疑われ、憎まれ、91歳まで生きた―――。


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