日本の若者にスピーチをするアントニオ・グテーレス氏(上智大学にて/写真:上智大学提供)
日本の若者にスピーチをするアントニオ・グテーレス氏(上智大学にて/写真:上智大学提供)
会場には多くの人が詰めかけた(上智大学にて/写真:上智大学提供)
会場には多くの人が詰めかけた(上智大学にて/写真:上智大学提供)

 2017年12月、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏が初来日した。ポルトガルの首相を経て、05年から国連難民高等弁務官(UNHCR)で難民問題に取り組んだグテーレス氏。彼は今回、24時間というわずかな滞在時間の一部を若者への提言に使った。上智大学で行われたスピーチのテーマは「人間の安全保障」。日本に大きく関係するテーマだ。

【多くの人が詰めかけた会場の様子はこちら】

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■日本が大きく貢献 「人間の安全保障」とは

 テロや貧困、そして環境問題。現在、国連のトップとしてグテーレス氏が向き合っているのは、まさに「国境なき」問題だ。島国の日本では身近に感じづらい問題もあるが、彼はあえて日本の大学でスピーチの時間を設けた。

 テーマである「人間の安全保障」とは、地球上すべての人間の生命、生活、人権を守るという概念。本来、安全保障は国土や国家を指すが、「人間の安全保障」は一人ひとりに焦点を当てる。暴力や人権弾圧などを絶ち、人間の生命や尊厳を守ろうというもので、「SDGs(持続可能な開発目標)」達成にも大きく関わる。

 ただ、実現にはいくつかの課題もある。ひとつは、核兵器。多くの国が核兵器を持つと使用リスクは高まってしまう。次に、複雑化する紛争。以前は大国が介入することで戦争を避けることもできたが、昨今は地域の紛争がテロリズムに発展するようになった。さらに世界は、地震、ハリケーン、洪水、干ばつなどの気候変動による脅威にもさらされている。

 グテーレス氏は、このような世界的課題を挙げたうえで、日本の立ち振舞いの重要性を訴える。

「唯一の被爆国である日本以上に、核の脅威を発言できる国はありません」

 実は日本は、これまで難民支援や基金の創設など「人間の安全保障」に積極的に取り組んできた。環境問題でも京都議定書をリードするなど、日本はこの概念を先導する立場にあるが、グテーレス氏はパリ協定にも言及し「まだ目標を果たして切れているわけではない」と言う。社会は日々便利になるが、生命や生活を脅かす脅威は形を変えて存在しているのだ。

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