ついに復帰戦へ向けて動き出す錦織圭(写真:Getty images)
ついに復帰戦へ向けて動き出す錦織圭(写真:Getty images)

「すごくシンプルです。自分の中で治ったと思えたら出るだけなので。それは他のドクターやトレーナーには分からない感覚。僕自身がこの手首が100%だと……テニスをして痛みがなくなれば出られる」

 2017年11月末、錦織圭は穏やかな表情で時折笑顔も浮かべながら、集まるメディアに応じていた。

 8月中旬に練習中に手首を痛めて戦線離脱した錦織は、有明コロシアム開催のチャリティーイベントなどのために帰国。ケガの状況や胸の内を実直な語り口で明かす彼が「復帰の目処」を問われた時に口にしたのが冒頭の言葉である。

 その時が……つまりは彼自身が「手首が100%」だと感じられた日が、ついに訪れたようだ。1月22日に、米国カリフォルニア州のニューポートビーチで開催されるATPチャレンジャー大会――それが、錦織が自ら選んだ復帰戦である。

 復帰戦公表の直前に、1月15日開幕の全豪オープン欠場も発表した錦織だが、当初出場予定だったブリスベン国際(12月31日開幕)を見送った時点で、全豪欠場はほぼ想定内だったろう。錦織のマネジメント会社であるIMGは「5セットマッチを戦うグランドスラムを、いきなり復帰後最初の大会に選ぶというのは無謀すぎる。ブリスベンに間に合わなければ、全豪も出ないだろう」との方針を早い時点で固めていた。

 12月末の段階では実戦に戻るにはまだ十分な状態ではなかった錦織の右手首だが、回復そのものは順調で、練習の頻度と質も大きく向上したという。「先週は特に素晴らしい練習ができた。現在、圭は4日間連続で1日2度の練習をしている」とIMGは明かしている。

 錦織が復帰戦に選んだATPチャレンジャーとは、ATPツアーの下部に属する大会群。出場選手のレベルはグランドスラムやツアーに比べれば下がるが、勢いや上昇志向に溢れた若者が集い、闘志をたぎらせる大会でもある。特にニューポートビーチ大会は、今季から新設された“オラクル・チャレンジャーシリーズ”と銘打たれた2大会のうちのひとつで、総合獲得ポイント上位の米国人選手には、3月上旬開催のインディアンウェルズ・マスターズ(BNPパリバ・オープン)への出場権が与えられる。地元の若手選手のモチベーションが高いことは、想像に難くない。

 ニューポートビーチ大会の出場選手リストも、その事実を映し出す。錦織を除く出場選手中、最もランキングの高いフランシス・ティアフォーは、米国のみならず男子テニス界が未来のスター候補と熱視線を送る19歳。以前に錦織も「すごくプレーが柔らかくて好きですね」と称賛していた、見る者を引きつける才能豊かな選手だ。

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ケガと付き合う決意を持って…