症例検討会では、こうして制作された3D臓器モデルをもとに執刀医、内科医、麻酔科医、看護師、薬剤師、技師などが治療方針を検討して共有します。患者と家族にモデルを示すことで、手術方法の具体的な説明にも役立ちます。最大のメリットは、執刀医がこの臓器モデルに実際にメスを入れ、手術のシミュレーションをおこなうことができることです。

 ただし、こうした精密な3D臓器モデルを作成するには「エンジニアが医師にどの部位をどういう色彩、素材で再現するかを指示してもらったうえ、CTなどのデータからノイズを除く必要がある場合もあります」(同社アプリケーションエンジニア・竹内翔一氏)といいます。海外の病院や研究所には3Dプリンターのエンジニアが常駐し、手術にあたる医師らと緊密に連携しながら臓器モデルを作成しているといいます。3Dプリンターに限らず最新の医療機器には医療者と工学系のエンジニアの連携を必要とするものが多く、日本でもこうした「医工連携」が進むことが期待されています。

 一方、3Dプリンターは研修医のトレーニングにも用いられています。また、執刀医が使いやすい手術器具、患者ごとに異なる手足の形状や好みに応じた装具の制作にも使われています。歯科領域では、患者のあごにフィットしたインプラントのためのサージカルガイドの制作もおこなわれています。こうした手術器具、装具、サージカルガイドなどは、データを入力するだけで実際に使用できるものを制作できます。

 今後、3Dプリンター技術は医療のさまざまな分野において、患者個々の病態に応じたオーダーメイドの診療を進めるうえで大きく貢献することが期待されます。

(取材・文/小池雄介)