なぜマネキンたちがアイドルになったのか? グループのマネージャーで、銀山の運営会社「シルバー生野」社員、大坂雄吾さんは「観光振興のため、一肌脱いでもらいました」と明かす。

 室町時代から本格的な採掘が行われ、明治時代以降は、日本の近代化を支えてきた生野銀山。閉山の翌年、1974年から観光施設として営業を始めた。バブル期の80年代後半は、歴史や産業遺産の愛好家を中心に年間23万人が訪れたが、近年は年間7万人程度と落ち込む。

 若者や家族連れなど、もっと多くの人に来てほしい。悩んだあげくに白羽の矢を立てたのが、銀山のマネキンたちだった。大坂さんは「彼ら(マネキンたち)の強い希望もあった」と話す。

 ボーイズといいながら、鉱山で働く男性53体と追っかけ(という設定?)の女性7体で構成。うち半数は開業時からいる“古参”で、いわゆる「平たい顔」をしている。残りのメンバーは、既成のマネキンをアレンジしたかのような、彫りの深さが特徴だ。どちらも味のある顔立ちである。

 ボーイズたちは2017年7月下旬、デビュー曲「ギンギラ銀山パラダイス―GGGZPDS―」を携えてデビューを果たした。さらに、選抜メンバーのカビやススを落として坑道の外に出し、PV撮影も敢行。動画サイトなどで公開した。PVには、朝来市の多次勝昭市長も、ヤマ男姿で特別出演している。

「聞こえますか? ノミの音/見えますか? 見果てぬ夢♪~」

 前時代的(?)なフレーズで始まり、陽気なメロディーに合わせてボーイズたちが「ようこそ地下880mへ」「一攫千金誰のもの/ノミ1本で掘りあてて見せるさ/君のハートを掴むように」などと歌うデビュー曲は、特徴のあるキャラクターも相まって、たちまち話題となった。17年10月現在、PVの再生回数は4万5000回を超えている。

「デビュー曲の歌詞は、これまで銀山に興味がなかった人にパンチを与えたいと、制作スタッフで一言一言を吟味しました。80年代のアイドルグループをリスペクトし、チープなゴージャス感を大切にしています」(マネージャーの大坂さん)。ボーイズ効果か、現在のところ、銀山の来場者数も前年比10%ほど増えているという。

 しかし、大坂さんには悩みがある。「彼らはやる気はあるんですが、人前では動かないポリシーを持つがゆえに、坑道から出すのが大変なんですよ」。メンバーはもともと据え置き型のため、底におもりが埋め込まれており、小学生よりも重い。「劣化も激しく、暗い坑道内だと分かりませんが、外に出すとすごく汚れています」

 さらに、機械で動く18体は外に出せない仕様になっているため、「イベントなどでは、イケメン度合いよりも、出しやすいメンバーを優先してしまいます」(大坂さん)。また動かないため、イベント時はスタッフが後ろから黒子のように支えて動かしているという。

 そんなスタッフの涙ぐましい努力を知ってか知らずか、ボーイズたちは今日も寡黙にアイドル活動を続ける。今後は総選挙やミニライブなども検討中だ。異色のスーパーアイドルたちに、ぜひ会いに行ってみてほしい。(ライター・南文枝)