この「柳田1番」と同じく、工藤監督の決断が光ったのは5回の攻防だった。デスパイネの2本目のタイムリーでリードを再び3点差に広げ、さらに1死満塁とすると、DeNAは先発の井納から左腕の田中健二朗にスイッチ。すると指揮官は2回に2ランを放っていた7番・長谷川勇也を引っ込め、代打に川島慶三を送ったのだ。

 左対左とはいえ、本塁打を打った長谷川に代打を送る。その大胆な勝負手は、ここで一気に勝負に出るというメッセージ性の強い一手でもある。「次の1点が大きいのかなと思った。相手はここでつなげられたらイヤかなと思って、あそこはズバッと代えました」という指揮官の狙い通り、川島が押し出し四球を選ぶと、この回打者10人の猛攻で7得点。5回で10-1のワンサイドとなれば、相手の反撃意欲もそがれる。警戒するホセ・ロペス、筒香嘉智、宮崎敏郎のクリーンアップも筒香への2四球のみの無安打に封じ、DeNAの攻撃力を完全に封じ込めた。

 「柳田1番」と「代打川島」という“積極采配”で、大事なシリーズ初戦で大勝を収め、「柳田君が最初からしっかりとヒットを打ってくれたおかげで先制できて、みんなの緊張がそのヒットでほどけたんじゃないかなと思います」と工藤監督。その柳田は5回に右前へ2点タイムリーも放った。

「当たりはあんまりよくなかったですけど、これからの日本シリーズ、乗っていけるかなと思います。日本シリーズ? 楽しいっす。(2軍本拠の)筑後でリハビリより、楽しいっす」

 今季最後の大舞台に間に合った。その喜びと安堵感が柳田の躍動感を生み、その勢いは間違いなくチーム全体に波及している。

「本当に良い戦いができている。自分たちのペースで。まだ1戦なので、相手だってシリーズの雰囲気に慣れてくれば、いつものバッティングが考えられる。決して浮かれず、また明日に一戦必勝でいけるようにやりたいなと思います」と工藤監督。

 昨年まで67回を数える日本シリーズでは、初戦を制したチームが41度日本一に輝いている。2年ぶりの日本一奪回へ、ソフトバンクが最高の滑り出しを見せた。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。