試合後、ベンチ前でハイタッチをする工藤監督らソフトバンクの選手たち (c)朝日新聞社
試合後、ベンチ前でハイタッチをする工藤監督らソフトバンクの選手たち (c)朝日新聞社

 4戦先勝の日本シリーズ。いかに早く、相手よりも先に自分たちのペースを掴めるかが短期決戦の流れを大きく左右する。今季のレギュラーシーズンで、先取点を奪った82試合で73勝を挙げたソフトバンクにとっては「先行して逃げ切る」という“得意の型”に持ち込むことが何よりも重要になってくる。工藤公康監督はだからこそ、シリーズ初戦での先制点を渇望したのだ。

「多分、立ち上がりはみんなすごく緊張していると思う。初戦で、どっちが早く点を取ってリラックスできるかが大事な部分だと思うので、1回からフルスロットルで飛ばして、何とか点を取れるようにやっていきたい」

 何としても、先制点を取る。シリーズの流れを呼び込むための『起爆剤』として、指揮官は柳田悠岐を1番に据えた。

 リーグ優勝を決めた直後に右脇腹を痛めた柳田は、およそ1カ月の戦線離脱。懸命のリハビリも及ばず、楽天とのクライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージ(FS)開幕には間に合わなかった。柳田不在のFS4試合で先制点を取れたのは1試合のみで、総得点も14。ところがFS5戦目で電撃復帰した柳田が1番に座ると、1回の第1打席でショート内野安打。これを口火に3点を先制し、終わってみれば7-0の圧勝。その記憶も新しい印象的な活躍ぶりを再現させたかのような先制攻撃を、日本シリーズ初戦で柳田が再び演出したのだ。

 DeNA・井納翔一の立ち上がり、その3球目を柳田が中前へ運んで出塁。続く今宮健太は2球目に送りバントを決めて得点圏に柳田を送ると、3番のアルフレド・デスパイネが2球目の148キロ直球をはじき返し、左翼線を破る二塁打。柳田が生還しての先制点に要したのは、わずか7球。鮮やかすぎる速攻のきっかけを作った柳田に、工藤監督も「期待通り、それ以上という感じに捉えている」と絶賛した。

 一昨年、打率363、34本塁打、32盗塁で「トリプル3」を達成。内川聖一が左手親指付け根の骨折で戦線離脱を余儀なくされた夏場には4番も務めたスラッガーを「1番」で起用する。何とも贅沢な布陣だが、指揮官は「長打もあるし、ヒットも打てるし、足もある。盗塁とか、そういうところも気をつけなければいけないというのを考えると、バリエーションというのは3番のときより増えるのかなと思いますね」。

 ポイントゲッターとしての役割をこなせるのは分かり切っている。それ以上に、リードオフマンとしての役割に適性があるのではないか。FS同様、日本シリーズという短期決戦では、柳田のような長打力とスピードを兼ね備えた男に先陣を切られ、勢いをつけられてしまっては、相手はたまらないだろう。投手出身の工藤監督だからこそ、その恐ろしさといやらしさが分かるのだ。

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