このスケジュールで解散を強行した背景には、2020年までに「憲法改正」を実現したいという思いがあるはずだ。おそらく選挙が終われば、「憲法改正」に向けた動きを加速するだろう。しかしそれについても、選挙できちんと問うつもりはないようだ。

 総理は演説の終盤で、有効求人倍率などの数字を挙げながら、「自分の努力で未来をつかめる、まっとうな状況」を作ることができたと自公政権の実績を強調していた。しかしその一方で、実質賃金が下がり続けている状況については、全く触れなかった。今回の演説に限らず、総理は実質賃金の問題には言及したがらない。私たちの暮らし向きが苦しくなりつつあることには、ほとんど関心がないらしい。

 演説終了後、プラカードを持参している女性に話を聞いた。彼女は、十数人の知り合いを誘って、今回の演説会に参加したそうだ。彼女は、総理の演説を踏まえた上で、「森友・加計学園の問題は何が真実なのか、本気ではっきりとさせてほしい」と述べた。また北朝鮮の問題については、「政府は、国を守ると言うが、彼らこそ国を壊していると思う」と批判し、「政府の対応は、北朝鮮を追い詰めることにしかならない。なぜこういう状況に至ったのか、社会全体で考えていく必要がある。」と語った。

 また仕事が休みだったので、買い物のついでに参加したという20代男性も、対話ではなく圧力を強調する北朝鮮への対応に違和感を覚えていると述べた。その上で、「仕方ないのかもしれないが、安倍さんは自分に都合のいいことしか語らない。子どもの喧嘩のような言い合いではなく、きちんと議論をしてほしい。」と語った。

 安倍総理はつくばでの演説会の後、水戸でも演説会を開催した。水戸では、「国難」を強調する総理の演説に対して、「お前が国難だ」との声が上がった。そのこともあって、政権に批判的な聴衆が参加することを警戒したのか、5日に予定されていた新百合ケ丘駅での演説会は、向ヶ丘遊園駅へと急遽会場が変更された。また6日の西国分寺駅、立川駅での演説会では、総理が来ることは直前まで公表されなかった。これでは、事前に連絡が入っている党員しか演説を聴きに行くことはできず、報道ではステルス(隠密)演説と揶揄されている。

 批判者の声に耳を傾けない街頭演説会には、国会での野党からの批判にまともに受け答えをしない総理の政治姿勢が反映されているように思う。安倍総理は、つくば駅前での演説の中で、「しっかりと愚直に、誠実に」政策を訴えていきたいと述べていた。しかし残念ながら、安倍総理の対応を見る限り、誠実さなど微塵も感じない。国会からも逃げ、国民の声からも逃げる、そんな人間に政権を担う資格があるとは到底、思えない。(諏訪原健)

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諏訪原健

諏訪原健

諏訪原健(すわはら・たけし)/1992年、鹿児島県鹿屋市出身。筑波大学教育学類を経て、現在は筑波大学大学院人間総合科学研究科に在籍。専攻は教育社会学。2014年、SASPL(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)に参加したことをきっかけに政治的な活動に関わるようになる。2015年にはSEALDsのメンバーとして活動した

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