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「中原中也賞」詩人が読み解く「モヤモヤ」な気持ちとは?

連載「もやもや詩的読解」

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文月悠光dot.#女子

文月悠光(ふづき・ゆみ)/1991年北海道生まれ。早稲田大学卒業。詩人。中学時代から雑誌に詩を投稿し始め、16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年時に発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少18歳で受賞。詩集のほか、エッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、書評の執筆など広く活動中(撮影者/キムラタカヒロ)

文月悠光(ふづき・ゆみ)/1991年北海道生まれ。早稲田大学卒業。詩人。中学時代から雑誌に詩を投稿し始め、16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年時に発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少18歳で受賞。詩集のほか、エッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、書評の執筆など広く活動中(撮影者/キムラタカヒロ)

文月悠光さんが訪れたAERA dot.編集部(撮影/写真部・小原雄輝)

文月悠光さんが訪れたAERA dot.編集部(撮影/写真部・小原雄輝)

 モヤモヤ。端的な言葉で表しにくい「違和感」や「ズレ」。納得しがたい気持ち。「生きづらさ」まではいかない、ちょっとした「日常のしんどさ」や、胸の「ざわつき」。それらすべてをひっくるめて言い表してくれるのが「モヤモヤする」という一言なのだろう。

 たとえば私は、Twitterにペットの写真をたくさん載せている人を見ると、胸がざわつく。かよわい存在を目にすると、頭の隅に「死」という字がチラつくからである。こんな大々的に自分のペットを宣伝して人気者にしてしまって、もし明日、自分のちょっとした不手際で死なせてしまったら、どう報告するのだろうと不安になる。これは完全に妄想だが、悲しみのあまり、ペットの死後も何事もなかったように、生前の写真をツイートし続ける人がいてもおかしくないはずだ。

 なぜ自分は、かよわい存在を直視できないのだろう。愛らしいペットの写真に和みながらも、どこか平常心ではいられず、モヤモヤしてしまう。

 不謹慎な話ばかりで申し訳ないが、「自分の遺影を自分で選べない問題」をみんなはどう納得し、処理しているのか。

 死ぬ前に、失恋直後の恥ずかしい日記やウェブの閲覧履歴を消したい人は少なくないだろう。私はそれらが全部残っても構わない。代わりに、写りの悪い自分の写真をこの世から抹消できないだろうかと思う。

 まぬけな半目、ぶすっとした口元、笑いすぎて丸見えの歯茎、すべて一掃したい。もし自分の葬式の遺影が「これだけは絶対に使われたくない」絶望的なものだったら? 棺桶の蓋を蹴って這い出し、その遺影を燃やしにいくだろう。自分の人生の締めくくりに半目の写真を使われた日には、成仏なんてできそうにない。

 ちなみに実家の両親の手元にある近影は、気が抜けて眠そうな正月の顔写真ばかり。ダメだ、今死ぬのだけは絶対ダメ。

 自分の中の瑣末すぎるモヤモヤを思い浮かべて、つい苦笑した。心に溜まった「モヤモヤ」は良くも悪くも生々しく、人間くさい執着やこだわりでいっぱいだ。「モヤモヤ」は神のごとく人の心に潜み、「これっておかしいのでは……?」と問いかけてくる。


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