■銀行サラ金業という新たな地雷発生源

こうした銀行業界の貸し出し攻勢の結果、16年3月末時点の銀行によるカードローンを含む消費者向け貸出金残高は5兆1227億円と貸金業者の5兆1150億円を上回った。08年には貸金業者が約11兆円も多かったところからの大逆転である。17年6月末には5兆6793億円まで増えている。

しかし、そこには大きな問題が隠れている。

 金融庁の調査(16年11~12月)では、直近3年間で、ノンバンクで希望通り借りられなかった人の1割弱が、その後銀行カードローンで借金をしている。また、貸金業者や銀行から借り入れをした人のうち、借入残高が年収の3分の1を超えている人は全体の2割以上もいるという。これでは、まるで銀行が貸金業の総量規制の抜け道として機能していると言われても仕方がない。

 こうした懸念は統計にも表れた。10年以上減少をつづけていた個人の自己破産は、ついに16年に13年ぶりに増加に転じ、6万4637件となった。その傾向は今も続き、今年1~6月(上半期)は前年同期比5%増の3万3千件と2年連続で増えている。

■銀行の迎合・反撃とマスコミの忖度

 「個人の自己破産増加」という現象は、非常にわかりやすい警鐘となり、マスコミや国会審議などでも批判されるようになった。

 そこで、銀行は、遅ればせながら、対応策を採った。まずは、世論受けする迎合策だ。例えば、残高の約3割(1兆6500億円)を占める3メガバンクはテレビCMの「最短30分審査」などの表現を削除したり、年収証明書の提出を求める融資額の基準を「300万円超」から「50万円超」に引き下げるなどの対応を発表した。また、テレビCMの放映時間も絞った。

 しかし、銀行のカードローン金利は最高14%程度。こんなに利ザヤが稼げるおいしい商売をみすみす減らす手立てを銀行業界が本気で取るはずがない。銀行は、表面上は融資を自粛するかのような態度を取りつつ、周到にマスコミ対策も行って、カードローン批判に火がつかないような反撃の手立ても講じている。

 まず、第一がPRの絞り込みだ。広告宣伝を減らすと言えば聞こえはいいが、マスコミから見ると大変な脅しだ。新聞雑誌、テレビ局にとって銀行業界はその傘下の企業も含めて大変な「お得意様」。自社での広告を減らされたら大変なことになる。当然、カードローン批判の論調は鈍る。

 もう一つは、銀行の役割論と借金する側の責任論の流布である。「需要があるから貸している」「銀行が貸さなければ、闇金がはびこって消費者が食い物にされるがそれでもいいのか」「浪費やギャンブルで破産しても自己責任だ」というような内容を記者に話したり、ネット上でも流れるように仕掛けて行く。

 現に、新聞などでは、「融資を必要とする人がいる」、「カードローンだけ規制しても答えにはならない」というような内容が、やや全体の流れには沿わない形で付け加えられるようになった。

■闘いの本丸「総量規制」をめぐる政官財の癒着

 批判の矢面に立つのは、銀行だけではない。安倍政権と金融庁も批判を避ける必要に迫られた。

 特に、自己破産が増加に転じて、国会で総量規制の話が出始めると、冒頭で紹介した通り、9月1日に麻生金融担当大臣が「検査実施」を発表。金融庁は、「悪質なら業務改善命令も出す」「利用者保護を浸透させたい」などと消費者目線の姿勢を強調した。

 しかし、これは、とりあえずの選挙向けのポーズだと考えた方が良い。最近の世論は格差や貧困の問題には敏感だ。安倍政権としては、選挙が近いので、多重債務者問題に火がつくのは何としても避けたい。

 一方、厳しい規制を導入すれば、大事な金づるの銀行業界を怒らせる。これも選挙前にはできない。最低限、選挙後までの時間稼ぎが必要だ。その間、銀行業界には選挙への支援を求めるというシナリオだ。

 もちろん、銀行業界としては、自主的な対応で終わりにしたい。とりわけ、法改正で、融資の総量規制や厳格な手続き規制が導入されるのは絶対に困る。

 法改正を回避するために、金融庁の厳しい「ご指導」にこたえて、銀行業界が頭を下げ、一見厳しい自主規制を行うというパフォーマンスで何とか切り抜けようとするだろう。

 しかし、総量規制は絶対に導入すべきだ。同じ人に同じ金額を貸しても、「貸金業者なら貸し過ぎ」だが、「銀行なら問題なし」というのは全くおかしい。こんな政策は、銀行業界を特別扱いして多額の献金をもらうための措置だと言っても良いだろう。

 民進党はこの問題で、総量規制などの厳格な規制を導入する貸金業法の抜本改正案を秋の臨時国会に提出すべきだ。そうすれば、経団連重視の自民党vs.庶民の味方民進党という図式を演出することができるし、前原誠司新代表が唱える「対案」路線も示すことができる。

 一石二鳥の名案としてお勧めしたい。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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