「本部が所轄を見下す」というのはドラマ的には面白いかもしれないが……(※イメージ)
「本部が所轄を見下す」というのはドラマ的には面白いかもしれないが……(※イメージ)

 最終回で視聴率16.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録し、自己最高で有終の美を飾った刑事ドラマ『小さな巨人』(TBS系)。ドラマでは、警視庁捜査一課と所轄が対立するシーンがあるが、『そこが知りたい!日本の警察組織のしくみ』(朝日新聞出版)の監修者である古谷謙一さんによると、実際にはあり得ないことだという。

 そもそも、所轄というのは警視庁(道府県本部)の一部である。会社でいえば本店と支店のようなもので、警察官は人事異動で頻繁に本部と所轄を行ったり来たりする。国家公務員総合職試験に合格したキャリア組も、ノンキャリア組よりも期間は短いが所轄に配属される。立場が入れ替わるのは日常茶飯事なので、「本部にいるから所轄よりもエラい」とはならないのだ。ちなみに、シリーズ化している警察ドラマでは、同じ役職に10年以上も居続ける人がいるが、実際はメンバーが頻繁に入れ替わっている。

『小さな巨人』では、長谷川博己演じる香坂真一郎が捜査一課から芝警察署に「左遷」されているが、こうした異動はよくある出来事なのだ。ただし、僻地の警察署に飛ばされた場合は、「飛ばされた」という感じになるのかもしれない。

 重大事件が発生すると捜査本部が置かれ、大勢の捜査員が事件解決にあたる。捜査本部は事件が起きた所轄警察署に置かれることが多く、本部の人間も事件解決に努める。『小さな巨人』で「本部の人間」として幅を利かせた刑事部捜査一課は、殺人、強盗、暴行、傷害、誘拐、性犯罪、立てこもり、放火など、刑事ドラマによく出てくる凶悪犯を取り扱っている。捜査一課長は、『小さな巨人』では「警視庁4万人の現場警察官のトップに君臨する絶対的な存在」と紹介されたが、あくまで肩書きは「課長」であり、上には刑事部長がいる。

 捜査本部が設置されたら、一課と所轄はともに協力して捜査にあたる。織田裕二主演の刑事ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系)では、真矢ミキ演じる女性管理官が「所轄は朝まで管内の整備をしていなさい」と言い放ち、湾岸署の所轄署員が苦虫を噛みつぶしたような表情になるシーンがある。だが実際の現場では、こんなくだらない争いはほとんど起きない。事件発生前から盛んに交流しているので、むしろ捜査を通して仲が深まることが多いという。

 また事件が発生した管内の事情は、所轄の人間のほうが詳しい。そのため、実際の現場では本部の人たちが所轄を頼りにすることが多いのだ。「本部が所轄を見下す」というのは構図的には面白いかもしれないが、あくまでフィクションの世界での出来事だということを認識しておきたい。

 さらに日本の警察組織のしくみを知ることで、刑事ドラマや小説をより深く楽しんでほしい。