「岡田は普段から炭谷のリードを見て感じたことを、リードとしてやってくれている。炭谷にない部分を見せてくれています」

 秋元コーチがそう評す一方、岡田も「銀さん(炭谷の愛称)とは違うことをしないと」と意識している。特に十亀と組んだ交流戦では、それがプラスに働いた。

 6月1日の広島戦でポイントになった球種がシュートだった。十亀のシュートは球速140キロ前後で、パワーシンカーのように曲がりながら落ちていく。

「なんだ、この球は?」

 試合序盤、打者の反応をそう読み取ったバッテリーは、3回以降シュートの球数を増やして相手打線を翻弄した。十亀のストレートは若干シュート回転し、さらに130キロ台のシンカーも球種にある。同じような軌道を描く3球種とその残像をうまく使い、6回2失点で強力カープ打線から今季2勝目を挙げた。

 続く8日の巨人戦では一転、ストレートを中心とし、カーブを効果的に使いながら緩急をつけた。シュートの球数は前回から大きく減らした一方、3回2死1、2塁でマギー、4回の先頭打者の阿部慎之助、5回2死2塁の陽岱鋼というポイントとなる打者で、いずれもファーストストライクにシュートを投げて1球で仕留めている。

「そういう部分で球数が少なく済みました。相手が嫌になるような使い方をできればと思います」

 そう語った十亀は力で押すタイプで、シュートは決してウイニングショットではなく「楽をできる球」という位置付けだ。岡田も同じように考え、その日の出来や相手打線の調子を見極めながら十亀の良さを引き出している。そうしたリードは十亀やほかの投手陣だけではなく、正捕手の炭谷にも相乗効果を生むと秋元コーチは見ている。

「炭谷がうまくリードし切れなかった若いピッチャーを岡田がリードして勝ったとすれば、炭谷の刺激にもなりますよね。そうやっていけば、二人とも『今日は俺が勝つぞ』と1試合1試合に対する意識が違ってくると思います」

 長いペナントレースでは、選手層の厚みが勝敗を大きく左右する。加えて半年以上の戦いには当然、調子の波もある。そうした点で、一定以上のレベルを誇る捕手が二人以上いる意味は大きい。試合には一人しか出場できないが、チームとして対応できる幅が大きくなるからだ。そうやってチーム力を高めていくことこそ、首脳陣に求められるマネジメント力である。

 今季ここまで好調のチームで、第二捕手が貴重な働きを見せているのは決して偶然ではない。試合数を重ねることで疲労が蓄積されていく今後、その存在価値はとりわけ高まっていくはずだ。(文・中島大輔)