カメラのカット割りも、「曲のどの部分で、誰を、どんな角度で撮るか」というところまで細かく決めていきます。リハーサルで実際に映してみてしっくりいかないところがあれば、納得いくまで調整を重ねていきます。

 本番当日は、60分番組を丸1日かけて撮るという、それは丁寧な番組づくりになりました。

 その中で誰よりも汗をかいていたのが、他でもない槇原さんだったのです。

 それまでも番組でご一緒していたので素晴らしいお人柄は知っていたのですが、現場で見る槇原さんは全方位に一流の気遣いをされる人でした。細かいところまで行き届いた言葉がけや、リーダーとして「これでいきましょう!」と方向性を示す頼もしさ、人をまとめ上げていく力に、惚れ惚れしてしまったのです。

 テーブルの上に小道具として置いてあるクッキーやチョコレートを見つけると、「わ、このセレクト、センスいいねえ!」とすぐさま褒めて、さっそくひとつ口に入れてみる。カメラやマイクの調整などで数分、待ち時間ができると、「秀島さんのトーク、最高! 一緒にいると本当に安心する」と、気持ちをほぐしてくれます。

 ちょっとした言葉や振る舞いに、小道具さん、照明さん、カメラクルー、AD(アシスタントディレクター)さんら、すべてのスタッフが「この人の求める最高のレベルまで、頑張りたい」と思ってしまう。なんて素敵な言葉の魔法を持っている人なんだろう、と静かに感動しました。

 そうしてつくり上げた第1回が好評で、番組は回を重ね、全6回が放送されました。

 特に印象深く覚えているのは、第3回のさかいゆうさん、第5回のmiwaさんら、若いミュージシャンがゲストに来てくださった回です。

 彼らからすると、大先輩である槇原さんに聞きたいこと、話したいことがたくさんあります。詞を書くときは? 曲を書くときは? 浮かばないときは? など、質問が止まりません。矢つぎ早に繰り出される質問ひとつひとつに、槇原さんは、

「うんうん、わかるよ!」

「僕もね、昔はそう思っていたんだけど、今はね……」

 と優しく相槌を打ち、誠実に答えていきます。若い才能に対しても同じミュージシャンとして敬意を払い、学ぼうとする姿勢がそこにはありました。

 そんな槇原さんですから、ゲストとのトークは、表現者としての姿勢や生き方論といった深いところにまで及びます。いつも予定の時間をオーバーして、ときには日付が変わるまで収録が続きました。そんなときでも槇原さんは疲れたそぶりも見せず、「部活の合宿の夜の語りみたいだね!」と、笑顔を絶やさず情熱的に話されるのでした。

 一流のプロは、見えないところでいちばん汗をかいている人です。誰よりも声を出し、言葉にして、全員を盛り上げ、進むべき方向を示しています。神輿として担がれるどころか、神輿のいちばん重いところを自ら率先して担いでいる。オンエアでもオフエアでも、槇原さんの全力姿勢と気遣いからたくさんのことを教えてもらいました。