たとえば、こんなケースだ。ゴルフ教室を経営する男性が、生徒である未成年の女性をホテルに連れ込んで性行為に及んだ。男性が日ごろからスパルタ的指導をしていたこともあり、女性は彼とのあいだに強い上下関係を感じていた。先生から性交されそうになって、精神的に混乱し感覚がマヒして抵抗できる状態になかった。その後、女性は被害を訴えたが、裁判で男性にくだされた判決は、無罪。

山本「この女性は性行為をすることにまったく同意していませんが、被告人は生徒が断れないという確信をもって行為に及んでいます。女性が抵抗できなかったにも関わらず、暴行や脅迫がなかったのだから、女性は断ることができたはずだというのが、男性が無罪になった理由です」

 明らかに立場が上の人や、自分の生活を支えてくれる人に逆らうのがいかに困難か。加害者もそれをわかったうえで被害者につけ込み、性を使った暴力を行使する。暴行、脅迫が要件として残るということは、こうした加害者と被害者の実態をまるで考慮していないことになる、と山本さんは考えている。

山本「世界各国が“同意のない性的な侵襲、接触が性暴力である”と法律を変え、認識も変わりつつあります。この暴力によって被害者は何を失い、どう混乱していくのか。5~6割がPTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥り、非常に苦痛で生活しづらい状態になる。そのことによって失職したり、普通の生活に戻れず、人間関係を構築できなくなったり、何年も何十年も通院しなければいけなくなったり……といったことが現実に起きています。性暴力が人の尊厳を踏みにじり、大きなダメージを与える行為だと理解し、発言している刑法学者の方もいらっしゃいますが、今回の改正についての審議委員にはそのお名前が見られないのが残念です」

 いま、国会では共謀罪(テロ等準備罪)法案が審議されている。この刑法改正案が先に閣議決定されたにも関わらず、なぜか審議の順番が入れ替わった。後回しにされたともいえるわけだが、そこに国が、社会が性暴力、性犯罪をどう位置づけているかが如実に表れている。

山本「この問題を与党と野党の政治的な争点にするのではなく、日本社会は性暴力にどう対応していくつもりなのか、刑法を通してその在り方を問う議論をしてほしいです。ただ、もし今回の改正案がすべて通ったとしても、私たちの活動は終わりではありません。先ほどお話した暴行、脅迫要件や時効の問題が残ります。国の調査によって性被害の実態を明らかにし、それを踏まえてさらに刑法を改正していくことを引き続き求めていきます。そして今国会で必ず刑法性犯罪改正を実現してほしいです。私たちは110年待たされました。もう、待つことはできません」

(三浦ゆえ)