たとえば鴨川堤。京都の街なかを北から南に流れる鴨川は、賀茂川と高野川が合流して後の流れを言うのが京都人の習わしです。その合流地点から北の高野川と賀茂川は、ひときわ艶やかな花を見せてくれます。夜が明けるのを待ちわびて、おとずれてみてはいかがでしょうか。

 あるいは<哲学の道>。こちらは琵琶湖疎水ですから、南から北へ、土地の傾斜に逆らって流れています。上村氏と同じ、日本画の大家として知られる橋本関雪は、「銀閣寺」近くの「白沙村荘」に住み、かいわいをよく散策し、画題を求めたといいます。大正の中ごろ、名を成した関雪は、京都に恩返しをしたいという気持ちから300本の桜を寄贈し、哲学の道沿いに植樹しました。<関雪桜>と名付けられた花は代替わりした今も、水辺に美しい花を咲かせています。こちらもやはり「朝一番」がおすすめです。

 さらには、「哲学の道」の桜は、散った後も美しい。傾斜に逆らって、南から北へ流れる水は、散った花びらを集め、行き止まりに花筏を浮かべます。その場所は、銀閣寺交番のすぐ裏手。できる人は、「名残の桜」も愉しむのです。

「時間」だけでなく、「時期」をずらすのも、また、「できる人」なのではないでしょうか。