この試合はATPが「今季のベストのひとつ」と認め、マレーと錦織を「2016年で最高のライバル関係」とする記事を掲載した。つまり、現在の男子テニス界の主役と並び称されるまでの存在になったのである。準決勝でノバク・ジョコビッチ(セルビア)に敗れたが、錦織がこの大会から得たものは特別だったはずだ。

 プレー面ではサーブ&ボレーやネットプレー、より前に出て打つ攻撃的なストロークなど、新たな武器を披露した1年でもあった。忍耐力の向上と戦術面の進化、そして何より多くの檜舞台でトップ中のトップたちとしのぎを削ることで手にした自信も大きい。「テニスそのものの差はほとんどなくなっている」と、本人もツアーファイナルズでマレーに敗れた後に語っている。

 トップ4の時代とジョコビッチ1強体制が終焉を迎え、上位陣のパワーバランスが大きく変わった男子テニス界。1位のマレー、2位のジョコビッチ、4位のワウリンカが30歳前後であることを考慮すれば、来年は勢力図にさらなる変化があるかもしれない。3位のミロシュ・ラオニッチ(カナダ)や錦織ら、20代中盤の世代が真のメインキャストを演じる日も近いだろうか。日本人選手にそんな期待ができる日が来るなど、数年前には想像もできなかったが、錦織はこれまでにも我々の予想を良い意味で覆してきた。来年も日本が誇るスーパースターを注視していきたい。(文・井川洋一)