ところで、現在、梅味の「梅仁丹」、レモン味の「レモン仁丹」が2013年にリニューアルされ再登場している。タブレット菓子のようなスライド式のプラケースで現代ふうのルックス、檀蜜を起用したCMも話題になった。

 ただし、この梅&レモン、「医薬部外品」の扱いではない。

「以前は医薬部外品として発売していましたが、時代に合わせて梅やレモンのエキスや果汁を入れたお菓子としてリニューアルしています」

 同じ「仁丹ファミリー」ではあるが、属する場所はちょっと違うのである。

 仁丹は、街頭広告の先駆けでもあった。街に看板を出しPRする手法は斬新だったという。とくに浅草にあった、関東大震災で倒壊した浅草十二階を模した「仁丹塔」もよく知られている。

 京都市内の一部の町名看板には、今も「仁丹」の広告が健在だ。

「戦火を逃れたため、京都にはいまも700ほど残っています。人々の役に立ってはじめて広告の意味をなすという社訓があるんです」

 仁丹の生産量は、昭和60年代がピーク。現在は森下仁丹の主力商品という存在ではないそうだが、それでも多くのドラッグストアなどで、いつでも「出会える」商品だ。

「もともとターゲットが中高年の男性で、喫煙とも縁深く、タバコ屋さんの店頭でもよく売られていました。ガムよりも前から、携帯できる商品でした。オーラルの爽快感という意味では、現在はガムやミントタブレットに代わられたところはあります。ただ、ミントやフルーツのフレーバーとは違う独特の生薬の香り、これこそが仁丹にしかないかけがえのない特徴だという思いはあります。口臭や集中力のために噛むガムとは違う、医薬部外品としての効能・効果もありますので、家族の健康のためという使い方なども浸透していけたらと思っています」

 現在でも銀粒仁丹は、森下仁丹の新商品開発のアイデアのもとになり続けているという。

「弊社の医薬品部門でも、口内炎のお薬ですとか、薬用歯磨きですとか、口の周りの健康というところから発展しているのは、やはり銀粒仁丹という看板商品があるから。『ビフィーナ』という現在の主力商品も、銀粒仁丹の技術を発展させた、シームレスカプセルを活用しています」

 小さな銀の粒には、いろんなものが詰め込まれている。(文・太田サトル)