「五輪で実績を残したわけでも、無敗で勝ち続けてきたわけでもない。そんなパッキャオがこれほどの人気になったのには、階級を上げてもアグレッシブなスタイルを変えなかったことが大きかった。自分より一回りもふた回りも大きなボクサーを相手にエキサイティングなファイトを連発した。そんな姿を見て、アメリカのファンも興奮し、感動したんだ」

 バルガス戦のファイトウィーク中、あるフィリピン系アメリカ人の記者はそんな説明を加えてくれた。

 その言葉通り、攻撃的なファイトスタイルの魅力は全世界共通。112ポンドのフライ級から154ポンドのスーパーウェルター級(#注)まで次々と階級を上げながら、同じようにアグレッシブに前進し、強烈なパンチを振り回し続けた。メイウェザーのようにリスク回避の選手が勝ち残ることが多い近代のボクシング界で、パッキャオは異端児であり、一服の清涼剤だった。

 ボクシングキャリアと並行させて政治家としても活動するパッキャオは、今年5月には上院議員選挙にも当選。議員活動とボクシングキャリアを両立させようとすることに、近年は好意的なフィリピン国民ばかりでもないという。2009年以降はKO勝利からも遠ざかり、“ボクサーとしてはそろそろ潮時ではないか”と指摘する声も出てきている。5日のバルガス戦でもスキルフルではあったものの、全盛期の迫力が失われたことを残念に思ったファンも多いだろう。

 ただ…そんなマイナス面を差し引いても、これまでのパッキャオの実績が素晴らしく、ボクシング界にとって宝物のような存在だったことを否定できるものはいない。アメリカンドリームの体現者は、文字通りの“レジェンド”。現代に生きる私たちは、この選手と同じ時代に生きたことを、孫の世代にまで自慢げに語る日がいつか必ず来るのだろう。(文・杉浦大介)

 (#注/2010年11月にパッキャオが臨んだスーパーウェルター級王者決定戦は150ポンドの契約ウェイトで行われた)