37歳で現役復帰し、王者に返り咲いたパッキャオ。(写真:Getty Images)
37歳で現役復帰し、王者に返り咲いたパッキャオ。(写真:Getty Images)

 現地時間11月5日、ボクシングの6階級王者マニー・パッキャオの現役復帰戦がラスベガスで行われた。37歳になったフィリピンのスーパースターは、WBO世界ウェルター級王者ジェシー・バルガス(アメリカ)からダウンを奪っての判定勝利。10歳も若い選手をスピード、スキル、スタミナで上回り、再び世界王者に返り咲いた。

「僕のパンチも何発かは当たったが、彼の方が経験豊富だった。パッキャオはレジェンドだよ。彼を称賛しなければいけない」

 敗れたバルガスの方にも伝説的な選手へのリスペクトが感じられた。

 実に21年にわたるプロキャリアのうち、パッキャオは18年間を王者として過ごしてきた。その間にフライ、スーパーバンタム、スーパーフェザー、ライト、ウェルター、スーパーウェルター級を制して6階級制覇。フェザー、スーパーライト級でも最強と目された選手に勝っており、事実上の8階級制覇と記されることも多い。そして、これほどの実績を積み重ねる過程で、パッキャオは世界的な興行価値を誇るアスリートに成長していった。

 1990年代以降の米ボクシング界では、ビッグファイトのテレビ放送は視聴者がコンテンツを選んで見た分だけ課金されるPPV(ペイパービュー)が主流になった。売り上げ次第で多くの歩合を手にできるシステムで、一部の人気選手は1000万ドル(約10億4000万円)以上に及ぶ報酬を手にできる。ただ強いだけでなく、ファンに“金を払ってでも見たい”と思わせなければ大金は稼げない。

 パッキャオは過去にこのPPVで通算約1840万件を売り上げ、実に12億ドル(約1253億円)以上の収益を挙げてきた。個人のPPVの売り上げランキングでも、フロイド・メイウェザーに次ぐ史上2位。3~5位のオスカー・デラホーヤ、イベンダー・ホリフィールド、マイク・タイソンといったアメリカのスーパースターたちをも上回っている。

 アジアの島国出身、英語が母国語でもない小柄な選手が、ボクシングの本場と呼ばれるアメリカで超人気を誇るファイターになった。異国で抜きん出ることの難しさと意味は、特に海外暮らしの経験がある人には理解できるのではないか。幾つものタイトルを獲得する以上に至難なことを成し遂げたパッキャオを、“アジアの奇跡”と呼んでも決して大げさではないのだろう。

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