場面は移り、艦橋からの光景が前に広がっていた。高さ約40メートルから見る水平線は、甲板から見るものに比べ、より丸い。高いところにある分、甲板からは水平線に隠れて見えない敵艦を早期発見できるというわけだ。よく見ると、左前方の水平線に2隻の艦影が見えた。敵艦見ゆ――9門の巨砲が左45度に回頭する。「うちぃーかたぁーはじめー」という号令と共に、「ドゴォーン」という爆音が響く。全9門のうち6門の巨砲から一斉に放たれた爆風によって、艦の左舷はしばし黒煙に包まれた。放物線上に放たれた弾頭が敵に着弾するまで、49秒もの時間がかかる。それだけ、大和の射程の広さを体感できた。

 このとき本来であれば、大和は砲撃の反動によって、9度近く傾いたという。だが、開発途上からか、この傾斜までは再現されていなかった。

 こののち、艦橋後部にある、「ラッタル」と呼ばれるはしごから甲板に降り、続いて艦内へと案内された。艦内では厨房の様子が見学できるほか、艦長室なども訪れることが可能だ。艦内も主要施設は再現されており、全長250メートルはある廊下を走り抜けることもできる。VRとはいえ、75年の時を越えて自分がその場にいるような体験ができるのは極めて貴重だ。

 このように、VRには既に失われてしまったものをリアルに体験できる力がある。観光ではこの性質を活かし、既に失われてしまった城郭を再現し、VR体験できる取り組みがなされている。VR大和も、こうした取り組みに続いた格好だ。神田技研のオフィスには10月13日に発売されたばかりのゲーム機「PSVR」も置いてあり、仁志野氏によれば「PSVRによるソフトの販売も視野に入れている」とのこと。今後は戦艦武蔵や空母赤城といった他の軍艦の再現も目指しており、VRによる時空を越えた“大航海時代”はまだ始まったばかりと言えそうだ。

 なお、このVR大和、10月29日(土)から11月13日(日)にかけて、神奈川県横須賀市にある記念艦「三笠」内で、VR体験イベント「VR戦艦大和竣工記念式典」が開かれる。体験料金は300円で、別途記念艦「三笠」の入館料がかかる。当日は多数の試遊台が用意される予定で、VR戦艦大和を楽しむことができる。

 「三笠」の中で「大和」に乗る。何とも奇妙な体験だが、海の上で本格的なVRを味わえることは確かだ。10月29日、全国の大和ファンの夢をのせ、VR大和は「三笠」と共に静かに出港する。(文・河嶌太郎、小神野真弘)