「観客は、誰も私のことを知らない。当然、みんなスター選手のストーサーを応援する。ならば私は、ファンの度肝を抜くような“特別なこと”をしてやろう」

 それが大坂の誓いであり、彼女の言う“特別なこと”とは、最大の武器であるサーブとフォアハンドであった。時速200キロに迫るサーブと快音を轟かせるフォアの強打が、狙い通り観客の驚嘆の声を生み、徐々に彼女への声援と変わっていく。プレーする姿で歓声を生み、見る者を惹きつける稀有な魅力を、この頃から彼女は備えていた。

 目指す選手像は「観客に楽しんでもらえる、エンターテイナー」。「将来の夢は?」というありきたりな質問には、「ありきたりな答えだけれど」と囁くように前置きしながら「世界1位と、可能な限り多くのグランドスラムで優勝すること」と即答する。

 フットワークやポイントパターンの習得など、まだまだ学ぶ点が多いことは、本人が誰よりも自覚している。それでも、謙虚で野心に満ちた18歳は、いつの日か自分が世界の頂点に立つことを疑わない。轟くサーブの破裂音が、1万を超える観客の大歓声を引き起こし、グランドスラムのセンターコートで勝者として名を呼ばれる、その日の訪れを――。(文・内田暁)