打者を圧倒する球威があるわけではない田中は、試合序盤では特に手探りで出来の良い球種を見つけようとしていることがよくある。先日のブルージェイズ戦は本人が「軸になるような球はなかった」と振り返るほどの不出来だったが、それでも緩急を織り交ぜながら、何とか打者をかわしていった。

 繰り返すが、5日のゲームは少なからずラッキーだった。しかし、崩れそうでも崩れず、何とかして活路を見出した登板はこの日に限った話ではない。今季は28試合中17試合でクオリティスタート、5回もたずに降板したのは1度のみという安定感は、この適応能力があればこそだ。

 メジャー3年目で注目度こそ下がったものの、田中は現時点で勝率、防御率、WHIP、三振/四球率のすべてア・リーグのトップ10に入っている。“支配的”とまで言える投球内容ではないだけに、サイ・ヤング賞のような個人賞の獲得は難しい。それでも、特にニューヨークのようにせっかちな場所で、粘り強さを発揮し、高勝率をマークしていることはもっと評価されて良い。

 今季はすでに28試合で計179回1/3を投げ、初の200イニング突破もほぼ確実。様々な意味で、27歳の日本人右腕はメジャーリーガーとしてまた一歩階段を上ったのだろう。シーズン最後の1カ月、そして来るべきオフシーズンは、その頑張りが改めて評価される時間になっても不思議はないはずである。(文・杉浦大介)