しかし、まだまだ安心はできない。設置して最初の週末の9日には、一時小屋の扉だけが「バイーンバイーン」と開閉し続ける事態となり、必死で復旧させたという。小川さんは「カッパの時もそうだったが、順調に動くまでは調整が必要」と話す。

 現在は、てんぐは毎日午前9時5分から午後6時5分までの間、毎時5分、20分、35分、50分に現れる。一方のカッパもまだまだ人気で、午前9時から午後6時までの毎時00分と30分に登場。5分から15分おきに妖怪が姿を出現するという無限ループが体験できるのだ。

 また町では、カッパの着ぐるみが登場する定住促進のPR動画まで制作。着ぐるみといっても“ゆるキャラ”のようなかわいらしいものではなく、ラテックスゴムでできた特撮風だ。リアルさを追求してシンプルな構造にしたため“中の人”は呼吸がしにくく、着ても5分程度しか持たない“地獄スーツ”である。

 動画の制作も、映画を週5本レンタルするという小川さんが担当。「テレビリポート風の全然集中できないやつを作ろう」との思いで、テレビリポーターの女性2人が、町を舞台にカッパからの逃走劇を繰り広げるという破天荒な作品を作り上げた。

 学校で、ゴルフ場でと、次々と住民らの「尻子玉」を抜き、ふぬけにしながら、なぜか女性たちを追うカッパ。住民約100人が登場し、「いやいやいやいや……」とカメラをさける女性、居酒屋で飲んだくれながらカッパのニュースを見る男性、すべてがリアルだが、いったい何が定住促進なのか、最後まで分からない。いや、分かるかどうかも疑問だ。

 15年末から約3カ月かけて制作、16年3月末に動画サイトで公開したところ、一晩で800回以上再生された。しかし長い。自治体のPR動画としては異例の約23分もある。小川さんは「最後3分のオフショットを集めたスタッフロールが見もの」と言うが、そこまでたどり着く人は少ないそうだ。小川さんは「自分の思いつきを詰め込んで満足したが、3分にするべきだった」と苦笑する。

 てんぐにしてもPR動画にしても、「福崎という町の名前を知ってもらうのが狙い」と語る小川さん。辻川山公園を「無料のテーマパーク」とするため、カッパ、てんぐに続く第三弾の構想も練る。小屋から出てくる妖怪を変えることも考えているそうだ。

 国内外から妖怪をテーマにした造形作品を募集する「全国妖怪造形コンテスト」も好調で、じわじわと「妖怪の町」として認知されつつある福崎町。キモカワ妖怪ブームはいったいどこまで続くのか。一風変わったまちおこしから目が離せない。

(ライター・南文枝)