日本では大規模小売店舗立地法(いわゆる大店法)の規制があり、米国型の大型店舗の出店が難しかったのである。スーパー各社の中で、大型店舗による安値販売という理想に見切りを付け、コンビニという小型店舗による定価販売路線にいち早く切り替えたのがセブンであった。

●利便性と価格の高さはどちらが優先か?

 コンビニは店舗の規模が小さく収益性が低い。こうした業態で十分な利益を上げるには、安値販売の理想は捨てなければならない。また、フランチャイズ制度を導入することで、店舗運営のリスクをフランチャイジーに負担してもらう仕組みも必要となる。こうして現在のコンビニの運営形態が形作られてきた。

 定価販売は消費者にとって高い買い物となるが、事業者にとってはメリットが大きい。各社の中でセブンが突出した業績を維持することができたのは、大型スーパーに見切りを付け、コンビニに舵を切ることに成功したからだが、こうした路線転換の立役者が鈴木氏というわけである。

 コンビニは日本の隅々まで店舗網を拡大し、生活になくてはならないインフラとなった。一方、日本では大型スーパーが十分に発達しなかったため、消費者はかなり高い買い物を強いられてきた。コンビニのフランチャイズオーナーが厳しい環境に置かれてきたのもまた事実である。

 だが、どのような流通形態が理想的なのかという論争に決着が付く前に、国内市場は人口の減少が顕著となってしまった。今となってはコンビニという業態ですら、場所によっては存続が難しくなりつつある。流通業界には、時代に合った新しい業態が求められており、そのようなタイミングで鈴木氏が退任を迫られたというのは、歴史的に見れば、一種の必然ということなのかもしれない。(文・評論家 加谷 珪一)