大学卒業後、就職してからも漫画を描いて雑誌に投稿し、落選した作品をアニメ化してきた。コンピューターでのアニメ制作が全盛の時代にセル画を手描きし、ビデオカメラで撮影、編集する。主題歌や音楽も担当し、登場人物全員の声を加工せずに演じ分ける。女の子の声は、のどぼとけを下におろす、裏声を駆使するといった涙ぐましい努力をするそうだ。

 関西学院大学の学祭では毎年、新作アニメを上映してきた。約10年前からは東京で上映会などが開かれるようになり、ひそかな人気を集めてきた。そして三戸さんのミュージックビデオ公開により、一気に注目度が上がったが、パソコンもスマートフォンも持たない伊勢田さんはどこ吹く風。「評価を気にするよりも、次の作品をつくりたい」とひょうひょうとしている。

 漫画同好会の後輩である男子学生は「スーパーヒーローのような存在。卒業しても、ずっとやり続けられるところがすごい」と尊敬のまなざしを向ける。伊勢田さんは「まだ作品にしていないネタが100個ほどある。心配なのは、生きているうちに終われるのか、とビデオカメラの寿命だ」と話す。

 試しに、10分程度のアニメ作品「ふらんくフルート」のDVDを見てみた。フルートが得意で、フランクフルトを食べるとサイバーミュージックヒロインに変身する小学生、譜欄久ふるとの涙あり、笑いありの物語。昭和の商業アニメを思わせる作りだが、画面から伝わる勢いと予想もつかない展開の速さに引き込まれた。この熱量こそが、伊勢田さんの持ち味なのだろう。

 今後は「時代ものや少年少女のすれ違いなどを題材にした作品にも挑戦してみたい」という。伊勢田さんの情熱はとどまるところを知らない。

(ライター・南文枝)

【伊勢田勝行さんの作品「恋戦士ラブコメッサー」はこちらから】
https://youtu.be/745mEWhha3A