どこかで聞いたような話。そう、小説や、テレビドラマで人気を集める「下町ロケット」の価値観である。「世界のYKK」として所帯が大きくなっても、「技能を伴ったモノづくり」を目指すことを忘れてはいけない、との思いだ。大企業だからこそ、工場単位で設計と製造の現場が一丸となれる目標を持ち、ショーアップされたイベントのなかで戦うことで、再確認したいものがあるのだろう。

 ところで、大会の実施にあたり、お国柄がいろいろ現れた。例えば、米国チーム。日本を含む東アジア圏でコマは身近な子どものおもちゃだが、米国人にとっては初めて見るものである。その概念から説明する必要があり、苦心の末、表面に溝を掘るなど工夫を凝らしたコマが完成した。しかし、回す段階になって、指先で軸を回転させながら弾く独特の動きがなかなかできない。大会でコマを回す役の女性はプレッシャーから、ポケットに練習用の見本を入れて持ち歩き、勤務の合間に特訓したらしい。

 参加者は各国の衣装でステージ上に登り、ライティングされた「土俵」に力作のコマを投じた。精度の高いコマぞろいで、一見すると二つが並んで安定して回転し、止まっているように見える名勝負もしばしば。ステージの周りには幾重にも人垣ができ、会場は大きな盛り上がりをみせた。敗れた側はかなり悔しがっていたが、勝った側はほとんどが「予想通りの結果にニンマリ」という表情。勝利は技術に対する自信を深めてくれる。

 厳しい戦いを制して栄冠に輝いたのは、台湾工場の「台湾タイフーン」だった。担当した入社8年目、呉克均さん(33)は、台湾の言葉と日本語を織り交ぜてコメントした。

「この大会に向けてたくさんのコマでテストを繰り返してきました。楽しかったです。挑戦者は、いつでもかかってこい!」

 強気な“初代横綱”の誕生である。

(ライター・若林朋子)