引っ越し日が決まったので、いま住んでいるマンションの管理会社に退去届けを提出した。続いて区役所に転出届を提出して転出証明書をもらい、電気・ガス・水道などライフラインへの連絡、郵便物の転送手続きや、健康保険や免許証の住所変更など、事務手続きをこなしていく。クレジットカード会社や保険会社、インターネット回線などの手続きも忘れずに。また、粗大ごみは申し込みから引き取りまでに2週間近くかかることが多いので、引っ越し前に集荷してもらえるよう早めに手続きしておこう。

 そして迎えた引っ越し当日。さっそうとやって来た引っ越し業者の2人の青年が、大型家具や30箱近くある段ボールを、あっという間に運び出していく。梱包(こんぽう)にはあれだけ時間がかかったのに、運び出すのはあっという間。うれしいような虚しいような気持ちで、青年たちの活躍を見守る。

 おおかた荷物が運び出された部屋は、モノがなく大変すがすがしい。モノがないということは、なんて豊かなのかと気付かされる。しかし、今運び出されたモノたちは新居にそのまま運び込まれるのだ。またモノにまみれるのか……と暗澹(あんたん)たる気持ちになってしまった私は、少しでもモノを減らさねばと、汗だくで肩で息をしている青年2人に、恐る恐る「やっぱりこの2人がけのソファ、引き取ってもらえるでしょうか?」とお願いしてみる。一呼吸置いた後、笑顔で「わかりました!」と答えてくれた青年たち。お金を支払うとはいえ、その親切さとプロ根性に感動を覚えた。

 新居への荷物の運び入れもあれよあれよという間に進む。引っ越しは、当日を迎えるまでは本当に大変だが、いざ始まってしまうと、あっという間なのだなと感じる。作業を終えた青年がサインを求め、笑顔で去っていった。

 荷物が運び込まれた新居に1人残ると、無事に引っ越せたという安堵(あんど)感が訪れた。「すぐ使う」とフェルトペンで書き殴っておいた段ボールを開封して、カーテン、テレビのリモコン、お風呂セット、茶器などを取り出す。これからうずたかく積まれた段ボールを片付けていかなければならないが、しばし自分を慰労しようとお茶を飲んだ。

――引っ越しから1カ月。段ボールはまだ12箱残っているが、不便なく暮らせている。今のところ遅刻もしていない。最近また少しずつ遅くなってきている気もするけれど、大丈夫、たぶん。料理もするようになった。以前は妄想でしかなかった料理ができるようになったのだから、妄想でしかない彼氏が現実になるのも時間の問題だ。「引っ越したらすべてがよくなる」という妄想はこれでおしまいにして、妄想を実現すべく努力してみることにしよう。引っ越しを通して、ちょっと大人になれた気がしたアラサー女子だった。