本来は、緊急に避難路を検討するのに使う目的で作製された模型で、この方法なら大人も子どもも目で見て結果を把握することができる。さらに、理科実験のようなおもしろさもあるので、楽しみながら防災についての意識を高めることができるのがすばらしい。(ちなみに、溶岩と同じ粘性の液体を探すのにはあれやこれや試し、悩んだそうだが、とある市販シャンプーに水を加えたものが最適と分かったという裏話もある)。

 そして、NHK人気の番組「ブラタモリ」でも使用されているように、地形を読み取りその土地の成り立ちを知ることもできる。たとえば、立ち入りできず樹木が茂っているため、詳細が分からない古墳の形状も、赤色立体地図ではくっきりとその全体像が浮かび上がる。さらに、伊豆大島、御嶽山、箱根など多くの火山を赤色立体図で見てみると、噴火の時代が異なる溶岩が重なるようにしてできた地形であることが分かる。

 身近な商品としては、登山マップとしても活用されている。百名山の「山っぷ」という商品で、1/25000の地形図の背景に赤色立体地図を重ねたものだ。「山っぷ」のホームページで必要な山域を指定し、セブンイレブンのマルチコピー機で印刷、購入することができる。また、岐阜県では約50の小中学校で、身近な火山である御嶽山について学ぶ防災の授業が開催され、赤色立体地図が使われただけにとどまらず、常に見て学ぶことができるように、生徒ひとりひとりに赤色立体地図がプリントされた風呂敷が配布された。

 近年、もともとの地形を改変した上に作った住宅などが、豪雨や地震で被災する例が散見される。たとえば数年前に土砂崩れが起きたある場所は、赤色立体地図では「急な斜面があり、谷の出口に過去何度も起きた土砂崩れでできた扇状地がある場所」ということが読み取れる。しかし宅地造成されたものを人が目で見ただけでは、そのような過去の地形の変遷は分からない。「自分が買おうとしている土地、今住んでいる土地」の土砂移動実績を地形から判読し、災害に備えるには赤色立体地図の情報は非常に有効だ。

 すでに自治体では、その地域の赤色立体地図をオーダーし、防災に活用しているところもある。もし、自分が今住んでいる土地の赤色立体地図が見たいのに、まだ存在していない場合は、自治体にリクエストしてみるのもひとつの手かもしれない。

 千葉さんは宮城県石巻出身。震災で被害を受けた門脇小は母校だ。震災後、ふるさとの役に立てばと、石巻市の赤色立体地図を作り、市に寄付したという。今後の石巻市づくりに役立てばという思いからだ。

 多くの可能性を秘めたこの地図は、やがて「地図のスタンダード」になる予感がした。
(島ライター 有川美紀子)

【関連リンク】
赤色立体地図についての詳細が分かるアジア航測のページ
http://www.ajiko.co.jp/product/detail/ID4TB6OGWU9