早稲田実にとっても、清宮に関する報道が過熱しても一つもいいことがない。清宮の鼻が伸びれば、チームの和が乱れる可能性がある。また、プロ野球OBやスカウトのコメントが飛び交えば、それを目にした清宮のバッティングが狂ってしまう可能性もある。適度な報道には、注目されることで緊張感を生み、少年たちの自尊心を適度に高める効用があるが、度を超した報道は選手の慢心につながる。それをスカウトも知っているので、「まだ見てないんですよ」というつれない反応になるのだ。言い換えれば、そういう反応をプロにさせてしまうくらい清宮の素質は一流だといえるのだ。

 実際、清宮を見て凄いなと思うのは、春からの変化である。春の東京大会では駒大高、早稲田学院、関東一高戦で6安打放ち、駒大高戦で放った左前打以外はすべてライト方向へ引っ張る打球だった。それが夏は5試合して10安打放ち、そのうち逆方向への打球は3本あった。強打が恐れられ、投手の外角攻めが多くなった結果である。外角攻めに苛立ち、無理して踏み込んで打てば形が崩れて打てなくなる、というのがいわゆる”平凡な超高校級”のたどる道である。

 しかし、清宮は形を崩さないことに腐心する。準決勝の日大三高戦後には、高校生になって初めて三振した打席を振り返り、「ボール球なのに振っちゃった」と反省していた。それまで8試合に出場して36打席も三振がなかったのも凄いが、初三振を冷静に振り返る余裕もまた凄い。

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