「田中圭一のペンと箸―漫画家の好物―」第八話:「ど根性ガエル」吉沢やすみと練馬の焼肉屋(http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/1980)
「田中圭一のペンと箸―漫画家の好物―」第八話:「ど根性ガエル」吉沢やすみと練馬の焼肉屋(http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/1980
田中圭一さん1962年、大阪府生まれ。サラリーマン兼業漫画家、京都精華大学特任准教授。代表作に『神罰』『死ぬかと思ったH』など
田中圭一さん
1962年、大阪府生まれ。サラリーマン兼業漫画家、京都精華大学特任准教授。代表作に『神罰』『死ぬかと思ったH』など

「田中圭一なのに、くやしい……でも感動しちゃう!」

 今、ネットで「泣ける」と話題の漫画がある。ぐるなびが運営するグルメ情報サイト「みんなのごはん」で連載中の「田中圭一のペンと箸―漫画家の好物―」だ。「ペンと箸」は、有名漫画家が愛した料理を息子さんや娘さんに紹介してもらい、様々なエピソードを聞くというインタビュー形式のグルメ漫画。第1回ちばてつや、第2回手塚治虫、第3回赤塚不二夫と、登場する漫画家は巨匠揃い。さらに、作品の裏話や家族との珠玉のエピソードをその漫画家のタッチで描くという、ファンにはたまらない構成となっている。

 作者の田中圭一さんは、手塚治虫さんをはじめ、数々の巨匠たちの作品をここまでやるかというほどお下劣にパロディー化することで悪名を知られ、自身でも“最低お下劣パロディー漫画家”を名乗る異色の漫画家。代表作『神罰』では、田中さんが書いた「お願いです 訴えないで下さい!!」という表紙に対して、帯には手塚治虫さんの長女・手塚るみ子さんの「訴えます!! ライオンキングは許せても田中圭一は許せません!!」というパンチのある言葉が。手塚プロと良い関係性であることが伝わるが、実際に訴えられてもおかしくない内容であることは間違いない。

 そんな田中さんの漫画だけに、さぞかしえげつない連載になるかと思いきや、「田中圭一に泣かされる日が来るとは……」という声が多数寄せられるほどの大反響を巻き起こした。更新するたびに「神回!」と呼ばれ、ネットには「くやしいけど感動した」「うかつにも泣かされた」という感想が飛び交った。田中さん自身、「僕の引き出しにこんなものがあったのかと驚いている」と話す。

『ど根性ガエル』の作者・吉沢やすみさんの苦悩の日々を、息子である吉澤康宏さんの視点から描いた回も神回の一つ。

 大ヒット作品の次回作に苦しみ、ペンを持つと手が震え、吐き気が止まらなくなってしまった父。清掃会社で働き始めるが、突然失踪してしまい行方不明になったことも……。その後、ある転機を迎えたことで生活が安定してきた父は、少しずつ明るさを取り戻す。現在は孫と一緒に公園に行って、スケッチブックに描いた絵を褒めあうことが日課だという。こうしたエピソードが『ど根性ガエル』のキャラたちと共に描かれ、思わず涙してしまう、まさに神回なのだ。

“家族”という視点で漫画家の素顔に迫るため、誰もが共感しやすいことも反響を呼ぶ理由のひとつといえる。田中さんが大切にしていることは、“感動”という結論ありきのドキュメンタリーにしないこと。「むしろ感動的なエピソードなどを話さなくてもいいですよと伝えている」と田中さんは話す。

 大人気の「ペンと箸」だが、著名漫画家とその家族から取材許可を得るのは至難の業だという。出版社経由では、まず許可が下りない。田中さんや編集者の個人的なつながりのほか、息子さんが経営しているお店に潜入して取材をとりつけたことも。連載を重ねたことで、基本的に取材NGの漫画家が「ペンと箸」ならばと応じてくれたこともある。「アポイントを取るのが大変なので5回くらいでやめるつもりだったけれど、こうなったらやめようがない」と田中さんは笑う。

 現在「ペンと箸」は第13話まで公開中。今後もまだまだ神回が生まれていきそうだ。