サッカー・ナビスコカップ決勝は、これまで11月3日・文化の日に、国立競技場で開催されるのが恒例だった。決勝の舞台に駒を進めた両チームのゴール裏サポーターは、選手入場時にチーム独自のコレオグラフィー(人文字)で選手を迎えるのもすっかり定着していた。

 しかし,ご存じのように国立は、2019年のラグビー・ワールドカップや2020年・東京五輪のため大規模な改修工事に入った(といっても解体作業すら始まっていないが)。舞台を初めて埼玉スタジアムに移して11月8日に開催された決勝は、7年ぶり2度目の優勝を目ざすG大阪と、初優勝を狙う広島の顔合わせだった。

 関東圏のチームが出場していないせいか、7年連続して即日完売を続けていたチケットは、今回ばかりは売れ残り、スタンドも空席が目立った。さらに、G大阪のサポーターは青・白・黒のユニホームカラーに黄色の星2つをあしらった(2度目のタイトルを取るという意味)コレオグラフィーを披露したが、広島はサポーターが少ないためコレオグラフィーを断念。「俺たちも一緒だ! 広島のすべてをぶつけてやろうぜ!」という横断幕で選手を鼓舞した。

 試合はその広島が佐藤寿人のPKなどから2点をリードする。G大阪は、4-4-2システムから遠藤保仁をトップ下に置くダイヤモンド型の中盤を採用したものの、これがうまく機能しない。それでも38分、遠藤のアシストから189センチの長身FWパトリックがヘッドで1点を返して前半を終了した。

 後半を迎えG大阪の長谷川健太監督は、MF明神智和に代えてMF大森晃太郎を投入。遠藤をボランチに下げ、ボックス型の中盤に戻した。サッカーは不思議なもので、この采配によりG大阪は息を吹き返す。

 広島は、MF青山敏弘が遠藤をマークしていたものの、遠藤が下がったことで、青山も高いポジションでプレーすることになった。逆に、最終ラインとの距離が広がったため、スムーズだったパスワークにノッキングを起こしたのだった。

 後半の50分、51分と立て続けに決定機を迎えたG大阪は、1点目と同じような形から宇佐美貴史のアシストでパトリックが同点弾を決める。さらに71分、阿部浩之のシュートのリバウンドを大森が頭で押し込んで決勝点を奪った。

 リーグ連覇の広島だが、ナビスコ杯は4年前に続く2度目のランナーズアップ。天皇杯でも5度の準優勝と、カップ戦における“シルバー・コレクター”の汚名を返上することは今回もできなかった。

 一方、うれしいJ1初タイトルを獲得した長谷川監督は、これでリーグでの逆転Vと天皇杯(ベスト4進出)という3冠達成の可能性を残した。

 選手全員でカップを掲げるセレモニーでは、主将の遠藤が気を遣い、「監督になって初めてですよね」と長谷川監督にカップを渡そうとしたが、「このカップは掲げたことがある(選手時代に)ので、お前がやれ」と断ったそうだ。そして「(大阪に)帰ったら、こっそり掲げたい」と満面の笑みで記者会見を締めくくったのだった。
(サッカージャーナリスト・六川亨)