「年をとっても、元気で働くことにより心身ともに充実し、自身の価値を実現できるのだ」と政府は国民に向かって呼び掛けている。そして、「法定の退職年齢の延長」は、一気に進むのではなく、段階的に実施すると説明している。

 具体的にはまず「女性の退職年齢を55歳に統一し、現在、退職年齢が60歳と定められている男性も数年後に1年延ばす。そして2045年をめどに、男女ともに65歳にするというのが政府の目標だろう」と、中国国内の専門家らは解説している。
 高齢者就業の分野では、日本は常に中国の「見本」となる存在である。シンクタンクや社会保障、高齢社会問題などの専門家らはこぞって日本の社会保障と年金制度を研究し参考にしている。

 今回の「法定退職年齢の延長」についても、こうした専門家らはたくさんの「日本の事例」を、中国の状況と照らしながら分析している。

 日本は2013年に65歳までの継続雇用制度等を企業に義務化し、本人が希望すれば再雇用ができるように整えられた。また、多くの日本人が働き続けることが「生きがい」であるとの考え方を持っている。

 実際、「人生100年時代の働き方」や「元気に働く輝くシニアを目指す」などのうたい文句をしばしば耳にする。

 もっとも、日本で高齢者が働き続けるのは、勤勉な国民性であるとの見方もあるが、家庭事情や文化にも関係しているであろう。一時期、「粗大ごみ」「ぬれ落ち葉」「終わった人」などと定年退職の男性が揶揄(やゆ)されたように、退職していきなり家庭に回帰しても、「何をすればいいのか」と戸惑う人も少なくなかったからだ。そして、今、定年関係のビジネス書がベストセラーになっている。日本の男性にとって「定年は恐怖」なのである。

■中国ではほとんどの人が「退職年齢の延長」に反対する理由

 先述したように、日本とは反対に、中国はほとんどの人が「退職年齢の延長」に反対している。

 中国のある調査機関の調査では、その割合が80%である。その理由をざっとまとめると、「年金をもらう年数が少なくなり損する」「家族と一緒にいる時間が欲しい」「第2の人生を旅行や趣味などで楽しみたい」「体力に自信がない」などが挙げられる。

 特に、中国はほとんどの世帯が共働きであるため、男性も積極的に家事に参加している。退職して家に回帰しても、まったく違和感がない。また、多くの高齢者が喜んで孫の面倒を見たがり、これを「生きがい」と感じる。ゆえに、退職後の生活をとても楽しみにしているのだ。

次のページ
3年連続で新生児の数は減り続けている